◎はしがき
「何だ、チャンバラじゃないか、ドタバタさわぎの連続じゃないか?」
しかしまた、そうしたドタバタさわぎの中にも、中国民衆のよろこびや悲しみ、平和を愛し不正をぬくむ中国民衆のせつない願いや祈りが、そっくりにじみ出ているのです。
一 洪大尉、百八の妖魔を逃がす
洪太尉「逃げたのはどういう妖魔じゃ?」
「合わせて百八の魔王がとじこめられておる…もしもこの者どもを世の中に話したら、きっと下界の人々を悩ますであろうぞ…とかたく申し渡されたのでございます。それをば閣下は話してしまわれました。さて、これはいったい、どうしたらよいやら!」
二 王師範、罪をおそれて東京(とうけい)の都を逃げだす
董(堅気の男ならともかくも、こんな素性のゴロツキを家において、子供たちが悪いことを見習いでもした日には、それこそ困ったことになる……)
小蘇学士(こんなやつを邸においても仕方がない。そうだ、小王都太尉のお邸に近習として使って下さるように推薦してやろう。あの方はこんな人間がお好きだから)
端王「お前は蹴鞠(けまり)ができるとみえるな。名前はなんという?」
「高球と申します」
三 九紋竜史進(ししん)、暗夜に華陰県を逃げだす
史進「この刀が承知するかどうか、きいてみろってんだ。これがうんといったら、通してやるわい!」
こういわれて、さすがの陳達もカンカンにおこった。
「ちくしょう、ほざいたな! つけあがるにもほどほどにするがいい!」
四 魯提轄(ろていかつ)、げんこ三つで鎮関西を打ちころす
魯達(ちょっとなぐってやるつもりだったのに、ただの三発でくたばるとは思わなかった。すると裁判にかかるは必定、拙者には食事のさし入れをしてくれるものもない。これは一刻も早く、ずらかるほかはない)
五 花和尚魯智深(ろちしん)、五台山で大あばれする
「林に遇って起り、山に遇って富み、州に遇って遷(うつ)り、江に遇って止まる、というのじゃ」
六 花和尚、花嫁にばけて小覇王をこらしめる
魯智深はとばりの中で、それをきき、一生けんめいおかしいのをこらえている。大王は手さぐりしながら部屋の中へはいって来て、
「奧さんや、どこにいる?」
…
「このやろう!」
大王「これ、どうして亭主をなぐる?」
魯智深「女房の手並みを見せてやる!」
大王「人殺し!」
七 史進と魯智深、瓦官寺を焼きはらう
魯智深「やい、そこなる坊主、どうやらきさまの声に聞きおぼえがある。名を名乗れ!」
「ちょっと待った! 話がある」
「ほんとに、貴公の名前は何というんだ? どうも聞いたような声だ」
「史進を覚えておられるか?」
「なんだ、史進君だったのか」と智深は笑った。
八 花和尚、柳の木を根ごと引きぬく
智清長老がその書面をひらいて読むと、中には魯智深の出家した理由、それからこのたび山を下りてこちらに頼って行かせたわけなど、くわしく書きしるし、「ぜひともうけ入れて、役僧にしていただきたい、この僧はいまにかならず悟りをひらく人間である……」
九 豹子頭林冲、高太慰にはかられて罪におちる
富安(ふあん)という男が、若殿のところにへやって来て、
「若さま、このごろお顔がすぐれぬご様子ですが、わっちが原因をあててみやしょうか。」
「うむ。おれもいろいろと女を見たが、どういうのかあの女にはぞっこんまいってしまった」