六二 燕清、李師師(りしし)のよって道君皇帝に見(まみ)える
李師師「あんた、つつみかくさず、ほんとうのこといって頂戴。山東の旅商人だなどいっておいでだったけど、あんた、ほんとうはだれなの? 打ちあけないと、そのままにはすておきませんよ」
「では申しましょう」と燕青…「われらが忠義の気持ちをあなたから天子さまのお耳に入れて下さるならば、あなたは梁山泊数万人の大恩人である」
「ほんとに悪いやつですわね。きっとあたしにできることはいたします。ーーまあいかが、一杯」
「でもまあ気晴らしに一杯おやりなさいましよ」
「にいさんも一曲吹いてきかせてよ」
「まあ、お上手だこと」
「にいさんはきれいな入墨(いれずみ)をしていらっしゃるんですってね。見せて下さらない?」
「うちに引越していらっしゃいよ。宿屋なんかにいることはないわ」
燕青「宋江らは旗に『替天行道』と大書し、堂には『忠義』と名づけ、州府を浸さず、良民をいじめず、ただ悪い役人や讒侫(ざんねい)のやからを殺すだけでございます。そして一日もはやく招安をうけ、国家のためにつくしたいと一心に望んでいるのでございます」
「朕は二度まで詔勅を降して招安をなした。しかるにどうしてこれを拒み、帰順しなかったのであろうか?」
宋江らはさっそく忠義堂に太鼓を鳴らして大小の頭領以下兵士をぜんぶ集めて、梁山泊の解散を申し渡した。
「われら百八人のものはこのたび天子さまの招安をうけて、のこらず都に上ることとなった。お前のうち、いっしょについて行きたい者はつれて行く。それを希望しない者は郷里(くに)に帰って良民となるように」
枢密使童貫「やつらは帰順したとはいっても、本心はまだ改まっておりませぬ。あのままにしておいては将来国家の大患となるでありましょう。いっそ百八人のものを城内にだまし入れて、残らず殺してしまった方がようございましょう」