六四 宋江、恩賜の毒酒をあおいで死ぬ
ーー物語の結末
「ふうむ。それでわかった。前に智真長老にさずけられた偈に『夏に逢って擒』というのは、万松嶺の戦さで夏侯成をいけどりにしたことだな。『鑞に遭って執』とは、方鑞を執(とら)えたことだ。すりゃ、あとのニ句『潮を聴いて円、信を見て寂』というのは、潮信に逢って円寂するということであろうが、ーーして、円寂たあ何のことだろう?」
「出家のくせに、そんなこともご存じないのですか。」
魯智深は笑って、「そうか。そんならわしはもう死ぬことになってるんじゃな。ーーそれじゃすまんが、湯をわかして来て下さらんか。沐浴をしたい」
沐浴をすまし、禅床にあがって、両足を組み、左足を右足の上にかさねると、そのまま大往生をとげた。
(…しかるに今、天子は軽々しく讒侫(ざんねい)の臣の言をきき、じぶんに毒酒を賜った。罪なくして果てねばならぬとは残念だが、仕方がない。ただ気にかかるのは李逵のことだ)
「兄弟、わしを悪く思わんでくれよ。じつは先日朝廷から勅使が来て、わしに毒酒を賜り、わしはそれを飲んだのだ。わしの命は今日明日に迫っているのだ。わしは一生忠義のニ字を守り通して、いささかも異心は抱かなかった。しかるに朝廷は罪なきわしに死を賜った。…昨日の酒の中に、じつは毒を入れておいた。閠州に帰ったら、お前はきっと死ぬだろう。死んだら、ぜひここへ来い…お前と亡魂同士ここ集まろうじゃないか」
宋江はそういい終って、はらはらと涙を流した。
「ああ、いいよ、いいよ。生きてる時はあにきに仕えた。死んで亡魂になっても、おれはあくまであにきの手下だよ」
その後、宋公明の霊験はあらたかで、雨を乞えばすぐ雨を降らせるので、人民は四季の祭を怠らない。それは楚州の蓼児哇(りょうじわ)でも同様で、今日に至ってもその古跡はなお厳として存しているとのことである。