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◎米エール大学教授ティモシー・スナイダー氏(51)
米国のコロナ禍の惨状の一因は誤った医療制度にあります。
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●トランプ氏は願望と気分の政治家
トランプ氏は真実と事実から目を背ける、願望と気分の政治家です。まずコロナウイルスの脅威に向き合わず、次に脅威だとしても米国には波及しないと吹聴した。希望的観測です。このため初動が遅れた。
「福祉は有色人種や移民を助けるだけ。我ら白刃は自立している。福祉は不要だ」
民主党支持者の多い都市、ミネアポリスで5月下旬に起きた黒人暴行死事件は象徴的です。………白人警察官に対する怒りは全50州での抗議雲藤に発展しました。1960年代後半のベトナム反戦運動以来の規模でした。
●「白人は無垢」と刺激
トランプ氏は大半が平和的な抗議運動を暴動と断じました。その言動は白人の会いだには「自分たちは暴徒の犠牲者だ」とする一色を与えたと私は考えます。「白人は無垢(むく)」という神話的な潜在意識を刺激したはずです。
トランプ氏は4年前の大統領選で「米国を再び偉大な国にする」と公約して当選しました。
私見では、虚構の国民国家への回帰をめざす無理な試みです。
● 「白人は無垢」と刺激
●「国家に帰属する白人」と「白人の所有する黒人奴隷」
国民国家は「一つの国民」の意識を共有する民族を主体とする統一国家です。米国は18世紀の建国時から「国家に帰属する白人」と「白人の所有する黒人奴隷」という大別して2種類の人間がいた。国民国家とはいえない。トランプ氏の「偉大な国」は白人・キリスト教徒だけで米国が構成された架空の時代を指しているようです。先住民を虐殺した史実も、奴隷を酷使した史実も忘れている。
●米国史は帝国史です。
21世紀の米国の最大の課題は「帝国以後」の国造りなのです。
トランプ氏は白人らの感情の乱れに道筋をつけ、新しい国造りの力に変えることはしなかった。白人がルールを決める偉大な国家という神話を掲げ、結果として国内の有色人種や移民らに対抗させ、国の分断を加速してしまった。
●最大の過大は「新しい国造り」。だが、国の分断を加速してしまった。
欧州は20世紀半ばに「帝国以後」の選択をした。欧州統合です。
欧州の国民国家は第2次世界大戦を猛省し、民族主義を克服して、協力し合うことを決めた――。これは欧州の言い分です。
真実は違う。
大戦は帝国間の戦争でした。
欧州帝国樹立をめざして東欧からソ連西部の侵略に動いたヒトラーのドイツ、アフリカ北東部などを侵略したムソリーニのイタリアは共に敗れ、帝国でなくなる。
戦勝組の英国は世界各地に植民地を広げた帝国、フランス、オランダ、ベルギーなどもアジアやアフリカに植民地を持つ帝国でした。
いずれも戦後、植民地の相次ぐ独立闘争を抑えることができず、20世紀後半には帝国ではなくなる。失った植民地の代わりに欧州に共通市場を作った。帝国解体と欧州統合は同時進行したのです。
大衆迎合の右翼政治家
「統合は国家主権を奪い、国家は自由を失った」
しかしコロナ禍に際し、人々の6割が「統合は強化すべし」と判断するようになっている。欧州連合(EU)は7月、イタリアなど南欧支援を念頭に復興基金の創設を決めました。初めて債務を共有することで合意したのです。「コロナ」以前のドイツでは考えられなかった。助け合う気持ちが生まれ、統合は一歩前に進んだ。
気掛かりは、欧州が世界のあちこちを支配して搾取した帝国の歴史に正対しないことです。不都合な事実から目をそらす限り、統合は強靭さをまといません。
英国は解体に向かうと私は考えます。離脱後、英国を構成する北アイルランドは経済的にはEU加盟国アイルランドと一体化して北アイルランドを失ったも同然です。
スコットランドは早晩、英国を抜け、EUに加わるはずです。
最後に中国です。習近平政権の「中華民族の偉大な復興」という号令下、サイバー空間で「領土」を広げる新手の帝国として台頭しています。ただ共産党支配を外国勢力の被害者と見なす独特の民族主義に依拠している。長期的には、世界と衝突するのか、国民が共産党支配に反抗するのか、いずれかではないでしょうか。
(読売9.13)