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【大機小機】景気判断、冷静に基本から
日本経済新聞 朝刊
2020/9/12 2:00
現下の景気情勢を判断するとき、次のような点に注意が必要だ。
第1は、年率計算だ。4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は、年率28%もの落ち込みだった。これを聞いて「経済規模が4分の1以上も縮んだのか」と驚いた人も多かったのではないか。
しかし、実際に縮んだのは四半期の変化率の7.9%である。四半期ベースの成長率を年(または年度)ベースの成長率と比較できるよう、同じ成長率が1年間続いたとして計算したのが年率成長率である。四半期で7.9%ものマイナス成長が1年間も続くことはありえないのだから、年率はあくまでも架空のものだという点に注意が必要だ。
第2は、タイムラグだ。成長率が明らかになるには2〜3カ月のタイムラグがある。我々は既に7〜9月期の経済に位置しているわけだが、この間に経済の動きは様変わりしている可能性が高い。
第一線のエコノミストの将来予測の平均値を調べる日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査(8月)によると、7〜9月期の成長率は年率13.3%、その後もしばらくは2%以上の成長が続くと予想されている。また、33人の回答者中31人が「既に景気の谷を過ぎた」と答えている。多くの人が経済の落ち込みの大きさに驚いている間に景気は回復局面に入っており、かなりの高成長を実現しつつある可能性が高い。
第3は、方向と水準の違いだ。通常、景気判断は経済指標が「上向きか」「下向きか」の方向に基づいて下される。経済指標の多くは5月を底に上向きに転じているから、多くのエコノミストは「景気は回復局面」と判断している。
しかし、前述の調査によれば、実質GDPは2022年になってもコロナ前の水準を超えられない。一般の人々から見ると、いつまでたっても、以前に経験していた経済状態に戻らないということになり、実感としては景気は悪いという認識を生むだろう。経済が異例の落ち込みを示した後なので、「方向に基づく景気判断」と「水準に基づく景気観」が過去に例を見ないほど大きく食い違うのである。
コロナ禍によって、日本の景気はこれまで経験したことがない大きな変動を示している。こんなときこそ基本に戻って景気論議が混乱しないように注意すべきだ。
(隅田川)