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春秋
日本経済新聞 朝刊
2020/9/24 2:00
「報酬はスイス銀行の口座に振り込んでくれ」。さいとう・たかをさんの劇画「ゴルゴ13」で、ビジネスを請け負ったデューク東郷は依頼主に言う。まず手付金。暗殺が成功したら残りの半分を支払う決まりである。「入金が確認され次第、仕事に取りかかろう」――。
▼物語の世界では、ルパン三世もブラック・ジャックも「スイス銀行」のお得意さまである。実際はそんな名の金融機関は存在しないが、スイスの銀行が顧客情報の守秘に厳格なのは確かだという。もっとも、近年はそれがマネーロンダリング(資金洗浄)の温床になるとの批判が高まり、どこの銀行も対策に躍起のはずだ。
▼事実は劇画より奇なりというべきか。米財務省の資金情報機関「金融犯罪取締ネットワーク(フィンセン)」が持つ膨大な内部資料がすっぱ抜かれ、計2兆ドル規模の「疑わしい取引」が浮かび上がった。投資詐欺や麻薬密売にからむ資金の処理、ロシアのプーチン大統領側近による制裁逃れ……。疑惑はてんこ盛りらしい。
▼金融情報の流出といえば、過去にもパナマ文書やパラダイス文書が世を騒がせてきた。しかしこんどは金融機関自体の問題だから、話は一段と深刻だ。マネロン撲滅は建前だけかと銀行不信が募るかもしれない。グローバル金融の裏の裏でうごめく汚れたカネ。その複雑怪奇なること、ゴルゴの口座の比ではないのだろう。