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2020.9.24-4

2020年09月23日 (水) 20:57
2020.9.24-

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【中外時評】軍縮条約失効で変わる景色
上級論説委員 坂井光
日本経済新聞 朝刊
2020/9/23 2:00

 ロシア軍の機関紙「赤い星」(8月7日付)に、アンドレイ・ステルリン参謀本部作戦総局長らの論文が掲載された。いわく「ロシアと同盟国を攻撃する弾道ミサイルはすべて核弾頭を搭載しているものと判断する」。

 高速で飛来するミサイルが核兵器か通常兵器かを見極めるのは不可能なため、核との前提で反撃するという趣旨だ。「レッドライン(一線)を越えたら破滅的な結果となる」。威嚇することばが並ぶ。

 軍人特有の強硬論として一笑に付すわけにはいかない。これに先立つ6月2日、プーチン大統領は「核抑止力の国家政策指針」を公表した。論文は、これを具体的に解説し「米国とその同盟国への警告」を強調したものだ。

 指針を全文公表するのが初めてなら、論文も異例。ロシアが繰り返し危機感を表明せざるを得ないほど、安全保障を巡る景色は変わった。

 ▼米国 2019年8月と12月、地上発射型の中距離巡航ミサイルと弾道ミサイルの発射実験を相次ぎ実施。政府高官は米領グアムのほか、アジア地域で中距離ミサイル配備の意向を示す。

 ▼中国 20年8月26日、本土から南シナ海に向けて中距離ミサイル「東風21D」と「東風26B」の発射実験を敢行。それぞれ空母キラー、グアムキラーと呼ばれる、米国が最も警戒するミサイルだ。

 米国防総省が9月1日に公表した報告書によると、中国は地上発射型中距離ミサイルを1250発以上保有。核弾頭は200発以上あり、10年後に倍増すると分析する。

◇◇

 ロシアは米国の行動が中国の脅威を前提にしていることは分かっている。とはいえ、米ミサイルが配備されれば対抗することは表明済み。すでに地上発射型中距離ミサイル「9M729」が一部で配備されたといわれるが、ロシアはすでに新たな中距離ミサイル開発を表明している。

 もはや軍拡競争の様相だ。目に見えるきっかけは、19年8月の中距離核戦力(INF)廃棄条約の失効だ。1988年の発効以来、米ロ(旧ソ連)は核弾頭、通常兵器弾頭にかかわらず地上発射型弾道および巡航ミサイル(射程500〜5500キロメートル)の保有、開発などを禁じてきた。

 財政的に太刀打ちできないロシアには都合のいい条約だったはずだ。しかし、同国は2000年代半ばごろから9M729の開発を始めたとされる。それに反発したトランプ政権が条約破棄を決めたのは皮肉ともいえる。

 さらに、来年2月には米ロの新戦略兵器削減条約(新START)が期限を迎える。失効すれば、1970年代以来初めて米ロの核軍備管理条約がなくなる。11月の米大統領選でバイデン候補が勝利すれば、一転延長もありうるが、それも不透明だ。

 米ロともに戦略核を増やすつもりはなく、同条約が失効しても両国の核バランスに大きな影響を与えることはないとの見方が多い。深刻なのは、査察・検証や情報交換の枠組みがなくなることだ。互いに疑心暗鬼を生じかねない。

 もうひとつの注目は蜜月といえる中ロ関係の行方だ。ロシアがミサイルを極東配備すれば北京など主要都市が射程に入るため、微妙な影を落とすとの指摘もある。ただ米国への対抗上、中ロは当面、政治的・軍事的に接近しそうだ。今後も強権色を強めざるを得ないロシアには中国陣営の方が居心地がいいからだ。

 一連の変化に日本もいや応なく巻き込まれる。米国は中距離ミサイル配備先の候補として日本を視野に入れている。非核三原則を堅持するといっても、ロシアがそうみなさないのは前述の通りだ。


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