「あ、お客様。寅(とら)年生まれですよね」。
▼虚を突かれ、おどおどしてしまった。「突然干支(えと)を聞く」は、他人になりすました詐欺師を見破る基本動作だという。それを白昼の銀行で試されたのだ。しかも寅年は引っかけで、本当は違う。お金を扱う会社は大変だなと、この時は無理やり納得した。が、どうやら近ごろはそれほど安全に気を使っているようでもない。
▼預金者を装って、キャッシュレス決済サービスとひもづけした銀行口座からお金を引き出す犯罪の被害が広がっている。指摘されるのは決済事業者側、銀行側双方の本人確認の甘さである。決済事業者の中には匿名のメールアドレスだけで口座が登録できる例もあったというから驚く。あの干支チェックはなんだったのか。