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米国の難路 バイデンの選択(中)資本主義、逆境越えて
ワシントン支局 河浪武史
日本経済新聞 朝刊
2020/11/11 2:00
「1世紀近く前、米国はニューディール政策で恐怖の時代に打ち勝った」。8月、ジョー・バイデン前副大統領が民主党の大統領候補の指名受諾演説で真っ先に挙げたのは、大恐慌時の1930年代の歴史的な大型公共投資策だった。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻になった3月以降、自宅の地下室でニューディール政策を徹底的に研究してきた。
バイデン氏は環境投資などで、10年で10兆ドル(約1050兆円)も歳出を積み上げるという。実現は議会次第だが、その規模は国内総生産(GDP)の5%とまさにニューディール以来だ。新型コロナは戦後最悪の経済危機を招き、90年ぶりの壮大な国家再建プランを呼び起こす。
トランプ米大統領はバイデン氏とは逆に、新自由主義の復活を目指し、大型減税や規制緩和を断行した。コロナ前は失業率が半世紀ぶりの水準に下がり、ダウ工業株30種平均も4年で5割上昇。もしコロナ危機がなければ、大統領選はさらに接戦だったはずだ。
ただ、トランプ時代の米国に吹いた逆風はコロナ危機だけではない。自由経済のダイナミズムは「自然力学としての所得格差」(グリーンスパン元米連邦準備理事会議長)を一段と悪化させた。トップ1%の富裕層の資産は34兆ドルと4年で6兆ドルも増えたが、中間から下半分は全資産を合計しても2兆ドルしかない。
新体制は過去最大の巨額債務も引き継ぐ。ゼロ金利政策で債務負担は目減りしており、財政出動の好機ではある。ただ、政府債務はGDP比130%と、大恐慌直後のすでに2.5倍だ。市場の安定を保つには、米国再生に直結する質の高い財政出動が必要となる。