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【The Economist】高まるロシアの軍事的脅威
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(10ページ)
2020/11/10 2:00
冷戦期に威容を誇ったロシア軍はソ連崩壊後は悲惨な状態だった。モスクワのバス運転手の方が戦闘機のパイロットより高い給料をもらい、飢えた兵士は木の実やきのこなどの食料探しに駆り出された。(幹部の)腐敗もまん延していた。ある将官は、ドイツの飛行場で自動車とジェット機がスピードを競う違法なドラッグレースにロシアのミグ29戦闘機を貸し出した罪で起訴された。
1994年には当時の国防相が「我が軍ほど悲惨な状態にある軍隊は世界中どこにもない」と嘆いた。だが、ロシア軍ほど劇的な復活を遂げた軍隊は歴史上ほとんどない。2008年夏のジョージア(グルジア)紛争で(軍備などの劣悪さから)失態をさらしたロシア軍は、その反省からあらゆる面で変貌を遂げた。
その第一歩は予算の拡大だった。軍事支出は購買力平価ベースでみると05年から18年までの間にほぼ倍増している。米シンクタンク、海軍分析センターのマイケル・コフマン氏によると、ロシアの年間軍事支出は1500億〜1800億ドル(約16兆〜19兆円)規模とみられる。これは英国の国防費の約3倍にあたる。
欧州で戦争が起きた場合、ロシアはこうしたミサイルを使うことで欧州側の前線からはるか後方の地上にある民間のインフラや軍事施設に脅威を与えられる。例えば(バルト3国の)エストニアの首都タリンを巡る紛争でも、ライン川より西の地域にまで戦火を広げることが可能になる。
ロシアの最終目的は、もともとソ連で構想された「偵察・攻撃複合体」と呼ばれる精密誘導兵器を備えることだ。これは、地上の車両や空中のドローン、宇宙空間の人工衛星、敵の無線信号の傍受機など、偵察を担う「センサー」から得られる情報を収集・処理し、リアルタイムで攻撃を担う「撃ち手」に転送して攻撃するシステムだ。
ロシア軍には実戦経験が豊富という強みもある。ロシアと中国は保有する兵器は同程度かもしれないが、訓練と実戦経験に基づく兵力の質には「雲泥の差がある」(コフマン氏)。例えばウクライナでは、装甲部隊による戦闘と砲撃戦を展開し、サイバー攻撃やドローンを使って標的情報を攻撃兵器に転送する実験の機会を得た。6万3千人を超えるロシア兵が派遣されたシリアは、精密攻撃や、敵機ドローン集団に対する防空、無人車両の試験場になった。
アダムスキー氏によると、シリアに駐留したロシア軍将校らは、ソ連時代の遺物である融通のきかないトップダウンの指揮系統に見切りをつけ、下級将校らに自主的に考えて行動する余地を与える「委託型指揮」を採用した兆候すら見られたという。同氏は「これはロシアの軍事的伝統からの大いなる決別になる」と指摘する。