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【風見鶏】自民党流「自助」の変化
日本経済新聞 朝刊 総合3(5ページ)
2020/10/4 2:00
菅義偉首相が政権のめざす社会像について「自助・共助・公助、そして絆」と繰り返すのを聞いて、ふと10年ほど前を思い出した。
野党時代、自民党の谷垣禎一総裁が唱えていたキャッチフレーズとそっくりだったからだ。同党は2010年1月に決めた新綱領に「自助自立する個人を尊重し、その条件を整えるとともに、共助・公助する仕組を充実」と書き込んだ。
有権者に自己責任を意識させる「自助」をなぜわざわざ明記したのか。谷垣氏に当時のことを聞くと「進む高齢化社会を見据えて自助なしで乗り切るとは言えない」と振り返りつつ「共助・公助とのバランスだ」とも強調した。
民主党政権が子の保護者に現金を配る子ども手当などの政策を進め、自民党は「バラマキ」と非難していた。谷垣氏は「財源もないのにおかしい。その批判もあった」と語る。その後、政権奪還に向けて「いきなり公助が前面の民主党」などと違いを際立たせる路線に傾斜していった。
その民主党出身で今の野党第1党、立憲民主党の枝野幸男代表は「自助」を切り出して「行きすぎた自助を求める新自由主義」と首相を批判する。
自助・共助・公助は首相独自の理念というよりもいわば党是だろう。首相は「自分でできることはまず自分でやってみる。地域や家族で助け合う。そのうえで政府がセーフティーネットで守る」と説明してきた。「天は自ら助くる者を助く」で有名なスマイルズの著作「自助論」を首相から薦められた議員もいる。
首相の「自助」は社会保障よりも産業政策を念頭に訴えているように映る。
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首相を支える党内グループ「ガネーシャの会」メンバーの牧原秀樹前経済産業副大臣は、政府が一人10万円の現金給付を決める際、官房長官時代の首相が財政を気にせず思い切って実行するよう主張したと話す。
業界保護の規制に切り込んで「自助」を求め、社会保障や再分配には「公助」で目配りする。この路線は構造改革と歳出削減による「小さな政府」を志向した小泉政権と、アベノミクスで財政を拡大しつつ幼児教育無償化など分配政策にも力を入れた安倍政権の中間にあるようにもみえる。
「業界の既得権益に厳しく臨む一方で、国民の生活状況にきめ細かく対応するのは、衆院の小選挙区制が定着した証拠だ」。政策研究大学院大学の竹中治堅教授はこう分析する。
一選挙区で複数人が当選する中選挙区制は必要な得票ラインが低くなり、農業、建設など業界の支持を基盤に議席を得ることも多かった。一人しか当選しない小選挙区制は幅広い層の支持を得なければならない。族議員の影響力が低下し、この傾向に拍車がかかる。