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【エコノミスト360°視点】
携帯値下げ、詳細なデータ検証を
渡辺安虎 東大教授
日本経済新聞 朝刊
2020/10/2 2:00
菅義偉首相が意欲を示す携帯電話料金の引き下げに大きな注目が集まっている。日本の携帯料金を巡っては様々な議論があり、筆者も消費者としては値下げを願う一人である。しかし経済学者としては、大ざっぱな現状認識に基づいて携帯会社に値下げを迫る政策が、必ずしも効果的とは考えていない。
むしろ政府が優先すべきは携帯利用者の行動を正確に理解することだ。もし携帯市場が競争的でないならば、どのような要因により競争が阻害されているかを丁寧に分析し、阻害要因を取り除く対策を考えるのが有効だろう。
そのために最も重要なのは、平均的な料金や大まかな指標を見ることではなく、個々の携帯利用者について実際の契約、通話、データ通信などの履歴の詳細なミクロデータを収集し分析することである。携帯会社から過去数年分を提出してもらい、将来も定期的に提出し続けてもらうのが望ましい。
ミクロデータから利用者の行動を分析する手法は、計量経済学が道具立てを充実させてきた。詳細な契約と使用のデータにその道具を用いれば、競争を阻害する要因を分析できる。分析には利用者の契約と使用履歴以外の個人情報は必要なく、プライバシーの問題は生じない。
もちろん政治的にはスピードが必要なのだろう。しかし利用者の行動を理解しないまま拙速に値下げを迫っても、競争の阻害要因が不明では問題を解決できず、利用者は値下げという政策の効果を実感できない恐れもある。丁寧な分析をした上で効果の大きな政策を選ぶ「急がば回れ」の姿勢が必要だろう。