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◎所得保障 韓国で導入論
広がる格差が社会問題に 知事ら提起、政府は慎重
日本経済新聞 朝刊 国際2(13ページ)
2020/9/25 2:00
【ソウル=鈴木壮太郎】韓国でベーシックインカム(最低所得保障、BI)の導入論が高まっている。所得格差の拡大が社会問題になっているのに加え、韓国政府が新型コロナウイルス対策で全国民に支援金を支給したことが、生活保障についての議論を活発化させる呼び水となっている。
火付け役は李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事だ。まずは1人当たり年間50万ウォン(約4万5000円)から支給を始め、長期的には基礎生活保障(日本の生活保護に相当)とほぼ同額の月50万ウォンを目標にする。
年間50万ウォンだと25兆ウォンが必要だが、財政の支出見直しで捻出は可能とみる。月額50万ウォンなら必要な予算は300兆ウォンと国家予算の5割を超える。 李氏は土地への課税強化や化石燃料からの二酸化炭素(CO2)排出に課税する炭素税、デジタル税など新たな税収確保により「15〜20年後には実現できる」と語る。
BI導入論は格差是正や福祉拡充に熱心な左派だけでなく、本来は「小さな政府」を志向する右派からも上がる。保守系野党「国民の力」の金鍾仁(キム・ジョンイン)非常対策委員長は6月「根本的に検討する時期が来た」と発言。同党は9月に採択した基本政策にBI導入を盛りこんだ。
背景には所得格差の拡大がある。所得上位20%の層が下位20%層と比べ何倍の所得があるかを示す倍率は15年10〜12月期の4.37倍から、19年同期は5.26倍に開いた。中長期的には人工知能(AI)などデジタル技術の革新で労働力が不要となり、拡大に拍車がかかるとの危機感もある。
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◎ 京畿道知事「政府支出で消費増」
大統領選でもテーマ
【ソウル=鈴木壮太郎】李在明・京畿道知事は日本経済新聞の取材に応じ、ベーシックインカム(BI)について「経済政策としても福祉政策としても極めて有効で、避けて通れない政策だ」と強調した。李氏は次期大統領の有力候補の一人で、2022年3月の大統領選でも「重要なテーマになる」と語った。
●李在明知事は次期大統領の有力候補でもある
――BIはなぜ必要なのでしょうか。
「自由競争の結果、一握りのグローバル企業への富の集中が進んだ。一方で技術革新で人間による労働の比率は下がり、所得の二極化が進んでいる。国民はお金がないので消費が減り、企業はお金があっても需要不足のために投資できない。そんな悪循環で世界経済は低成長に陥っている」
「需要と供給は経済の両輪だ。政府支出で消費に回るお金を増やし、需要を創出すれば経済は好循環する。所得格差の是正と、経済活性化という2つの課題を同時に解決できるのがBIだ」
――月50万ウォン(約4万5000円)の支給を目標にしていますが、それだけで生活できますか。
「月50万ウォンが保障されれば生活のために高い給料を稼ぐ必要がなくなり職業の選択肢が広がる。文化・芸術活動やボランティアが代表例だ。労働が『苦役』から『自己実現の手段』に変わり、暮らしが豊かになる」
――全員支給より低所得層に選別支給すべきだとの意見もあります。
「低所得層に絞れば高所得層が不公平と感じ増税への抵抗が生まれる。消費を促すには全員に恩恵があるほうがいい」
――企業への増税は反発もありそうです。
「米フェイスブックのマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)ら世界的な経営者がBIを支持する理由は簡単だ。このままではサービスを買ってくれる人がいなくなる。消費を促すBIは企業にも有益だ」
――22年大統領選でBIは争点になりますか。
「経済を立て直しながら広がる格差をどう緩和するか。考え抜いた末にたどり着いた帰結がBIだ。重要な論争のテーマになるだろう」