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春秋
日本経済新聞 朝刊
2020/9/10 2:00
一度見たら忘れない。ムンクの「叫び」は間違いなく、そんな名画のひとつである。不安や恐怖、怯(おび)えが、画集からでも伝わってくる。絵には時空を超えて意味を伝える力がある。外国でデザインを駆使した標識や看板を見つけ、ホッとした経験がある方も多いだろう。
▼フィンランドで世界初となる「核のごみ」の施設が建設中だ。名は深い穴を意味するオンカロ。完成の暁には10万年間は人が近づかないようにし、放射能がただ鎮まるのを待つ。未来への警告に言語は通じない。威嚇する壁や尖(とが)った風景、ムンクの絵の力を借りる案も検討された(記録映画「100000年後の安全」)。
▼果たして「日本のオンカロ」は進むか。北海道寿都(すっつ)町が原発からでる高レベル廃棄物の処分場に意欲を示す。先月表沙汰になると、周りの自治体や道知事は猛反発である。片岡春雄町長は「パンドラの箱」を引き合いに出し理解を求めるが、箱があいて禍(わざわい)では元も子もない。人口2900人、有数の強風地帯は荒れ模様だ。
▼そう言えば、「人類の進歩と調和」をテーマとした1970年の大阪万博では、会場に原発からの電気が届き大いに沸いた。あれから半世紀、原子力の燃え残りに目を背け続けるわけにはいかない。前述の映画で神学者は語る。「未来の世代を傷つけないようにする責務がある」と。寿都の騒動を我が身のことと考えたい。