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2020.9.11-6(4)

2020年09月10日 (木) 11:07
2020.9.11-

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〈文化〉 古典文学の美を描く〜
「小説伊勢物語 業平」の著者・?樹のぶ子さん

◆礎を創った歌人の一代記
 作家・?樹のぶ子さんによる近著『小説伊勢物語 業平』(日本経済新聞出版)が刷りを重ねている。最古の歌物語「伊勢物語」の主人公とされる平安時代の歌人・在原業平の青年期から晩年までを描く一代記である。

●文体にも“みやびさ”
 <「伊勢物語」は平安時代前期に成立したとされる日本最古の歌物語。作者・編者とも不詳だが「源氏物語」など後の文学に大きな影響を与えたとされ、能や絵画・工芸の題材にもなってきた。「むかし、をとこ〜」で始まる125の章段で構成され、恋愛や友情、流離、別離などが和歌を中心に語られる。その主人公に擬せられるのが、六歌仙の一人にも数えられる平安の歌人・在原業平(825〜880年)だ>
  
 「伊勢物語」が光を放ち続けるのは、主人公とされる業平の魅力が際立っているからでしょう。いつか、その人の一代記を小説で書きたい。そんな願望を以前から持っていました。
 内容を伝えることは現代語訳でもできたと思います。でも、時代の息遣いや匂い、色彩などは、やはり小説でなければ伝わりません。小説は五感をフル稼働させて書きますし、受け取るものだからです。
 125の章段が完全な時系列で並んでいるわけではありません。詠み人知らずの歌、後世の人が加えたと思われる内容もあります。まずは、業平自身の作と思われる歌を全て抜き出し、どんな場面、どんな心境でその歌が詠まれたか、彼の10代から晩年までをたどり直しました。
 それらの歌が地の文を読むだけで理解できるよう、同時に、平安という時代のみやびさが伝わるよう、文体を練り上げました。古典文学の音律や調べも意識して書いたつもりです。音楽的な心地よさを感じていただけるのではないでしょうか。

●史実を踏まえた人物像
 それを小説家の「さが」と言うのかもしれませんが、作品を書く時は想像力にリードされるものです。今回も、書き進めるに従って業平像がどんどん固まっていきました。ただし、でたらめなものにしたくありませんでした。この時代を知る手掛かりになるような作品にと思い、現時点で明らかになっている史実や研究を踏まえた業平像を再現しています。
 ある方が、今回の作品を「一体の化石を探し出して掘り起こし、組み立てて肉付けして命を与えたようだ」と言ってくださいましたが、わが意を得た思いでした。その「化石」は、1100年前の物語の大地に埋もれていた「昔男」の骨格にほかなりません。
 古典文学には、そういう謎解きの面白さとともに、他の分野にも通じる創造の種があると思います。今回の『業平』で創り出した文体で、さらに平安の文化人を続けて書いていきたい。次は女性を取り上げたいと考えています。

●1100年前へ旅するように
 業平たち当時の官僚に必要な学識は、理を重んじる漢字(真名)でした。漢字による漢詩文でなく、情けに重きを置く和歌=仮名の歌ばかり作るのは軟弱な者と見られたわけで、業平と同じ時代の出来事が編年体で記された史書「日本三代実録」には、彼のことが「官僚としての能力は欠けていたけれども、かな文字の歌には秀でていた」と軽蔑的に書かれています。
 でも、結果として1100年後の現在まで名を残したのは、他の誰でもなく業平です。彼は和歌という文芸の礎を築き、文化の力で自分の価値を創り、新しい時代を開いて、日本の美の源流になりました。
 今回の小説では彼と藤原氏の姫・高子とのかなわなかった恋を描きましたが、彼女は後に国母となり、歌の力を信じて、その後に編さんされる「古今和歌集」の歌人たちを支えます。彼女もまた、自分が果たすべき文化的な使命を深く理解した人だったと思うのです。
 文学が描く美の世界は、ひだが深い。その美の世界を贈りたいと思い書いた作品です。旅先で普段の自分や社会に思いをはせるように、小説を読むことを通して1100年前に旅をして、今という時代を見直す体験になるかもしれません。頭でなく体で、五感で味わっていただけるとうれしく思います。


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