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【中外時評】「在宅」用の裁量労働制を
上級論説委員 水野裕司
日本経済新聞 朝刊
2020/9/9 2:00
新型コロナ対策で広がったテレワークは働き方の「新常態」として定着しつつある。求められるのはテレワークをもっと使いやすいものにすることだ。焦点は労働時間制度の見直しである。
テレワークは「場所と時間に縛られない働き方」ともいわれるが、これは正確ではない。「テレ」は「遠い」という意味で、会社から離れて働く点では場所の制約が緩むといえるが、働く時間まで自動的に自由度が増すわけではないからだ。業務に就かなければならない時間は原則、通常と同じく会社が定める。実際に働いた時間を把握する義務も会社は負う。
在宅勤務は労働時間管理に柔軟さがないと支障が多い。家族の介護や子育てをしていれば、仕事から離れざるを得ないことがしばしばある。仕事に就いた時間を厳格に管理すれば、要介護の家族や幼い子を抱える人に本来便利なはずの在宅勤務は、一転して使いにくくなる。
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厳格な労働時間管理の底流にある考え方は2つある。一つは、働いた時間と生産量が比例し、労働時間を賃金決定の物差しにする「工場労働」の発想だ。仕事の成果が働いた時間に比例しないホワイトカラーにもこの考え方を当てはめるのは無理がある。
もう一つは、過度な労働者保護だ。厚生労働省が2018年2月に策定したテレワーク実施のガイドライン(指針)にそれが表れている。
長時間労働を防ぐ手立てとして、時間外・休日・深夜労働を原則禁止や許可制とすることが有効であると明記した。「労働者は弱い存在であり、規制によって彼らを守ってあげるという考え方が表れている」と八代尚宏・昭和女子大副学長は指摘する。
だが、裁量労働制の対象は現在、一部の専門職や企画・立案業務などに限られる。
八代氏は裁量労働制の一形態として「在宅に限定した制度をつくるべきだ」と提言する。営業、秘書、一般管理業務など、どの職種でも在宅勤務で利用できる新しい裁量労働制を設けるというものだ。健康管理面では労働時間の総量規制を設け、長時間労働に一定の歯止めをかける。検討に値する案だろう。
労働時間規制を強化しなくても済むよう、過重労働の温床である日本型雇用の改革を進めることも求められる。
日本の正社員の雇用契約は職務が限定されず、この「無限定」な働き方が長時間労働を招いていると指摘される。個々人の役割や必達目標を明確にする「ジョブ型雇用」の導入は打開策の一つだ。
「労働者は弱い存在」だとして過度な時間規制を設けては、かえって働きにくさが増し、デジタル社会を生き抜く力を養えない。働き手を過保護にすれば働き手自身のためにならない。労働規制のあり方を根本から見直すときだ。