???
日米同盟とミサイル防衛
党外交安保調査会での講演要旨
/元海上自衛隊自衛艦隊司令官・香田洋二氏
2020/09/08 3面
■「敵基地攻撃能力」は日本にとって必要か
実を言うと、防衛省が選定したイージス・アショアは今現在、世界のどこにも存在しない日本の特注品である。自分たちの予算で育てていかなければならないという自覚が必要だ。本当にそれで良いのかという論議はぜひ必要だ。
イージス・アショアは、いわば本格的な弾道ミサイル攻撃という強風から国民を守るための堅固な屋根付きの家だ。イージス艦による弾道ミサイル防衛はとりあえず雨を防ぐための「傘」だ。やはり屋根付きの家は必要だ。
ところが、イージス・アショアの配備断念に関しては「傘」の代替案ではなく、いきなり敵基地攻撃能力を持つかどうかの話が出ている。
今、国会も含め、「わが国と国民の防衛のために本当に何が必要なのか」という論議が見えない。
そもそも敵基地攻撃能力は米軍の機能だ。日本防衛のよって立つ基盤は日米同盟である。それなのに米軍が受け持っている敵基地攻撃能力を自衛隊が保有してどうするのか。あまり自衛隊が強い能力を持ち過ぎると、かえって米軍の自由度を封殺してしまう。自衛隊の能力が100として、ある状況下ではそのうち60で撃つのか、20しか撃たないのか。一方の米軍の能力は1000だ。両者の敵基地攻撃能力の兼ね合いは難しくなる。こうしたことも踏まえて日米同盟をどう考えるのか。
そもそも自衛隊の現状は、日本を守る能力としてもミニマム(最小値)以下だ。それなのに弾道ミサイル防衛に替えて、敵基地攻撃能力を持つことにどれだけのインパクトがあるのか。その分析はできているのか。そうした議論の土俵をつくり、リードするのは政治家の役割だ。
■イージス・アショアの代替案検討こそ重要
弾道ミサイル迎撃システムは必要かどうか。私は必要だと思う。「イージス・アショアはゴールキーパーだけで戦っているサッカーゲームだ」との批判を耳にしたが、私の意見は逆だ。自衛隊はディフェンダーで、フォワードには米軍がいるのだから、自衛隊が弾道ミサイル防衛をやらなければ、ゴールキーパーなしでサッカーをするようなものだ。私は、相手領域内で弾道ミサイルを阻止する能力は独立国としての固有の権利ではあるとは思う。しかし、それをもってイージス・アショアの代替案とするのは短絡的だと思う。
敵基地攻撃能力を考える前に、相手の領域内攻撃の是非や、弾道ミサイル防衛のあり方について、優先順位を付けて議論すべきだ。
NATO(北大西洋条約機構)や韓国には弾道ミサイル防衛部隊を展開しているが、それは米軍の装備であり米軍が運用・管理している。日本だけが自前の予算で配備し自衛隊が運用することにしていた。もし、その能力がなくなれば、国民の生命・財産が守れないだけでなく、「盾」と「矛」の関係で日本周辺に展開する米軍も守れなくなる。日米同盟の考え方としてどうなのか。
■議論が成熟するまで米国の「矛」に依存
弾道ミサイル防衛をどう確実なものにするかをまず考えていくべきであり、敵基地攻撃能力については、わが国の議論が成熟し、環境が許すまでは、米国の「矛」としての打撃力に依存することが大事だと思う。
ただし、一つだけ今から検討しておくべきことがあると思う。
それは、緊急時の正当防衛を考えると、「そのための装備としていかなるものがあるか」についての検討だ。そろそろ始めておく必要がある。
また、実際の敵基地攻撃作戦において米軍の最高指揮官(大統領)と自衛隊の最高指揮官(総理大臣)の意見が異なった場合の調整をどうするかも悩ましい。仮に自衛隊の攻撃機能を考えた場合、現行憲法の中で考えて、日米二つの独立した指揮系統の中でどう対応するかを確実に解決しておかない限り持ってはいけない。
こうだ・ようじ 1949年、徳島県生まれ。元海上自衛隊自衛艦隊司令官(海将)。72年防衛大卒。統合幕僚会議事務局長、佐世保地方総監などを歴任。2008年に退官後、米ハーバード大上席研究員などを務めた。