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2020.9.8-3(4)

2020年09月07日 (月) 21:39
2020.9.8-3

【核心】公共DX 「臨調」で進めよ
論説主幹 原田亮介
日本経済新聞 朝刊
2020/9/7 2:00

●鈴木善幸首相(右から2人目)に臨調基本答申を手渡し、握手する第2臨調の土光会長
(1982年7月30日、首相官邸で)

 安倍晋三首相が辞任を表明し、わずか1週間で菅義偉官房長官が次期首相のポストを射止める流れが強まっている。9月半ばに発足する新政権は何を最優先課題とすべきか。安倍政権を回顧すると、浮上するテーマがある。デジタル化を浸透させ、生産性向上の基盤を整えることだ。

 2012年12月に発足した2度目の安倍政権の経済政策を振り返ろう。黒田東彦氏を日銀総裁に起用して「大胆な金融緩和」で円高を是正し、企業業績や株式相場の回復に成功した。過去の政権ができなかった2度の消費税率の引き上げを実現したことも、国内総生産(GDP)の2倍超の債務を抱える国としては不可欠な仕事だったといえる。

 しかし金融、財政に続く3本目の矢である成長戦略はことごとく掛け声倒れに終わった。「地方創生」「女性活躍」「一億総活躍」「働き方改革」など様々なキャッチフレーズが乱立したが、沈みゆく日本経済の最大の病根には手がつかなかった。コロナ禍で表面化した日本社会のデジタル化の遅れである。

 特別定額給付金の支給では公的なIT(情報技術)インフラの貧弱さに多くの国民があきれた。「3密」防止なのに自治体の窓口は行列で混雑し、企業が進めるリモート勤務も、行政手続きの押印廃止やデジタル申請が進まないと尻すぼみになってしまう。

◇◇

 その点、公共DXの推進はさほど予算がかかる政策ではない。5年前に財務省がまとめた資料によると、国のIT投資は年間1兆円、自治体が7千億円強。このうち運用コストは国も地方も4千億円超という。技術革新に見合うシステムに変えていけば、運用コストはさらに削減可能だ。

◇◇

 日本経済の世界的な地位の変化をみよう。05年の名目GDPは世界全体の10%を占めていたが、18年にはシェアは5.7%に縮んだ。中国は16.1%で、3倍近くに差が広がった。1人当たりでみても米独などに離され、韓国の猛追を受けている。
 アベノミクスを総括すると、財政金融政策は円高防止や需要の追加などで経済の下支えはできても、潜在成長力を引き上げることはできないという結論になる。人口減という逆風をはね返すには国民1人当たりの仕事の質と量を向上させ、少ない時間で付加価値を生む仕事にシフトするしかない。デジタルトランスフォーメーション(DX)はそのためにある。

 行政のデジタル化を進めることが、国全体、日本経済全体に大きな効果を生むのかと疑う声があるかもしれない。

 だが行政手続きにかかる時間を人件費に換算すると、海外事例ではGDPの1〜2%にのぼる。大和総研も2年前のリポートで「何もしないと行政コストは6.2兆円もGDPを押し下げる」と試算している。ヤフーの川辺健太郎社長はツイッターで「公共部門のDX」を次期政権の重要な課題にあげた。

◇◇

 公共DXの実現は、大きな機運を時のリーダーが作り出せるかどうかにかかっている。安倍首相は8月28日の辞任表明の記者会見で「IT分野の反省点が明らかになった。官の側では役所ごと、自治体ごとに取り組みが違っている」と述べた。省庁や自治体の縦割りと、それにつらなる既得権を持つ業界が障害だ。

◇◇

 ある経済官庁の事務次官OBは「DXは政権が命運をかけてやるべき一大テーマ」と話す。抵抗を排し、実行力を担保するために「デジタル臨調」を立ち上げることを勧める。野党の総理経験者などもメンバーに入れ、オールジャパンの取り組みにすべきだという。経団連の名誉会長だった土光敏夫氏が会長を務め、1980年代に国鉄民営化などの行政改革を主導した「第2次臨時行政調査会(第2臨調)」を模したものだ。

◇◇

 立ち遅れたとはいえ、マイナンバーカードの普及率が2割に迫るなど、公共DXの道具はやっとそろいつつある。

 デジタル手続き法が定める行政手続きの3原則を徹底することが基本だ。(1)デジタルファースト(書面でなくオンライン化)(2)ワンスオンリー(一度提出した情報を二度出す必要はない)(3)コネクテッド・ワンストップ(民間のものも含めて複数の手続きを一度に済ます)――。これが広く実現すれば、目に見えて世の中は変わるだろう。

 自民党総裁選を優位に進めている菅官房長官は、行政のデジタル化について周囲に「本気でやる」と話している。8月上旬には若手経営者に会い、DXの進め方についてアドバイスも求めた。

 新政権がまず直面するのが、新型コロナウイルス対策と経済活動の両立だ。そのためにも公共DXの推進は避けて通れない課題である。


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