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国際情勢どう読み解くか
「心理」と「歴史」の二つのレンズで俯瞰
/藤崎一郎・中曽根平和研究所理事長
(党外交安保調査会での講演要旨)
2020/09/07 公明3面
国際情勢は、深い森に例えることが出来る。米国や中国、韓国、ロシア、北朝鮮、その他の木があり、それぞれに安全保障や経済などの枝もある。迷い込まないことが大事だ。
そのためには、ドローンを飛ばして森の形を見るのがいい。ドローンは双眼鏡を備えている。双眼鏡の二つのレンズは「心理」と「歴史」だ。心理とは、相手国のリーダーや国民の立場で考えてみることである。歴史は、とりあえず30年という時間軸で振り返ってみることだ。
まず北朝鮮の心理だが、金正恩氏が安全保障を考えると、?核ミサイルの放棄による経済制裁解除?戦争?現状維持――の三つのオプション(選択肢)しかない。体制維持を狙う金正恩の立場に自分を置いて考えれば、?も?も現実的ではなく、?しかないだろう。それが心理である。
歴史のレンズでみると、ここ30年間は、いい約束をしながら悪いことを繰り返して時間稼ぎしている。だから、いいことを約束しても、すぐ信じてはダメだ。
制裁を解除せずに自暴自棄にならないようにして少しずつ追い詰め、こちらを向くのを待つべきだ。
■(中国)対米関係で軌道修正も
次に中国をみる。30年前の歴史といえば、鄧小平氏の時代だ。鄧小平は中国型社会主義市場経済を唱えた。社会主義と市場経済という全く違うものの接着剤は先富論だった。一部が先に富んでもいいという議論だ。
また、中国が十分に力を蓄えるまで、爪や牙はちらつかせないようにすべしという韜光養晦も唱えた。しかし先富論は当然ながら格差を生み、国内に不満が鬱積していったと見るのが心理のレンズである。
これをそらすためにも、習近平氏は就任当初から、中華民族再興の夢、中国製造2025、一帯一路政策、南シナ海基地建設、空母建設などを次から次に打ち出した。
さらに近年では、「戦狼外交」といわれる好戦的な外交姿勢を強め、米国のみならず、英、仏、豪、インドなどとの摩擦を招いている。韜光養晦はどこに行ってしまったのか。今の状況はまずいと気づいている者もいるはずで、機をとらえて対米関係などを軌道修正したいと考えているだろう。
■(米大統領選)強さと変化好む国民性/政策の否定多く、あらゆる想定で準備必要
米国も心理と歴史のレンズで見よう。
米国民の心理は基本的に、強さと変化が好きだ。だから、これを反映して特に、選挙期間中は「勝ち馬に乗る」性向と対外強硬の姿勢がみられる。
歴史も見てみよう。もし大統領選でトランプ氏が代わっても、米国の一国主義は変わらないという指摘があるが、歴史を見ていない議論だ。
例えば、ビル・クリントンの時に北朝鮮の核開発を止めるために軽水炉を供与しようとしたが、その後のブッシュ息子は否定した。ブッシュ息子が行ったイラク戦争をオバマは間違いだったと言った。トランプはオバマ時代のパリ協定やTPP(環太平洋連携協定)、イラン核合意をことごとく否定している。
米国はリーダーが変われば政策も変化することを頭の片隅に置いておかねばいけない。あらゆるシミュレーションを準備しておく必要がある。
対中関係もしかりで、今、米国から聞こえてくる対中強硬論を、うのみにするのは危険だ。選挙期間中のものということを考えるべきだ。
バイデンが大統領になれば、世界でリーダーシップを取っていこうとする過去の米外交に戻るのではないか。日本との関係でも、首脳同士だけではなく、よりチームプレーを重視する形になるだろう。
■(敵基地攻撃能力)安保上の得失議論を
藤崎氏が講演終了後に佐藤調査会長などとの懇談で述べた、イージス・アショア断念後の安全保障論議のあり方への見解は以下の通り。
◇
――イージス・アショアについての見解は。
藤崎 私はこの問題について、三つのPが重要と思っている。プロセス、プロ・コン(利点・欠点)、プライオリティー(優先順位)だ。
まず、イージス・アショアを断念すると、なぜ代替案を検討せずに、ただちに相手領域内における弾道ミサイル等の阻止能力の議論に至るのか、そのプロセスである。
次に、法律論からだけでなく、わが国にとってのプロ・コン、すなわち得失をいろいろな角度から検討する必要がある。
最後に、安全保障政策の中でのプライオリティーを考える必要がある。
以上三つのPについて、国民の納得がいくよう、しっかり説明する必要があると考える。
ふじさき・いちろう 1947年生まれ。慶應義塾大学経済学部中退。外務省入省後、外務審議官、駐ジュネーブ国際機関代表部大使などを経て、2008年から12年まで駐米大使。18年から現職。一般社団法人日米協会会長。