けいざいナビゲート(公明)
製造業の意外な弱点
ジャーナリスト 栗原良雄
2020/09/07 2面
日本の製造業は設計部門のデジタル化に遅れがみられる――。政府は今年の「ものづくり白書」で、意外な弱点を指摘した。
世界の製造業は3D(3次元)データの活用など、設計段階でもデジタル技術の活用を進めている。日本も早急に対応強化を図る必要がありそうだ。
白書によると、?日本の製造業の主な設計手法は2D(図面)?調達部門では見積もりのため図面が必要――なほか、図面が発注内容と現物を照合する現品票を兼ねることも多いという。
白書は「3D設計は普及しておらず、企業間や部門間でのデータの受け渡しも図面が中心」と指摘する。
世界をけん引する自動車業界ですら、「依然として2D図が主流」「3Dでは表現しにくい図面情報(一般注記等)が課題となり、エンジン本体やトランスミッションなどで2Dへの回帰が発生している」とした。
3Dデータを用いてデザインを検証すれば、試作品による実験回数を減らせる。
設計部門でのデジタル技術活用で、「手戻り」(製造工程の途中で大きな問題が発見され、前段階に戻ってやり直すこと)をなくし、設計から生産までの時間短縮も可能になる。
このように設計部門のデジタル化は、競争力強化に不可欠な生産性向上やコスト削減に直結する。白書も?企画から製品設計で品質・コストの8割が決まる?工程設計以降は設計変更の自由度が乏しい――と指摘している。「データ活用や3Dデータでの設計による『設計と製造、サービスの連携』が重要」と訴える。
国際通貨基金(IMF)のゲオルギエワ専務理事は新型コロナウイルス感染拡大や米中対立激化などを念頭に、「不確実性は新常態(ニューノーマル)」との判断を示している。事実、新型コロナによって、国際供給網が急に寸断された。
設計部門のデジタル化は、データ収集・連携やシミュレーション(想定実験)による製品開発の高速化、柔軟な工程変更などを実現し、不確実性への対応力を高めることも期待できる。