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2020.9.6-4(3)

2020年09月05日 (土) 21:35
2020.9.6-4

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【Deep Insight】安倍氏、恐れた同盟の悪夢
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(8ページ)
2020/9/5 2:00

防衛予算の減少にも歯止めをかけ、13〜20年度に続けて増やし、自衛隊の能力を高めた。さらに国家安全保障局も設け、対外政策をすばやく調整し、決められる体制をつくった。
 これに対し、一部の政治家や識者は武力行使のタガを緩め、「戦争できる国」にしようとしていると批判を浴びせた。米軍占領下で制定された憲法の改正に執着したことから、軍事力を強め、米国からの「自立」を目指しているとみる向きもあった。

 だが、安倍政権の内幕を振り返ると、現実はそれどころではなかった。米国からの自立とは逆に、米軍による対日関与をどうつなぎとめ、日本の安定を守るかで必死だったのだ。

 複数の政府・自民党関係者によると、安倍氏はさまざまな内部の会議で、次のような趣旨の不安や懸念を示してきたという。

 ▼日本がもっと防衛力を強める努力を尽くさなければ、米有権者はいずれ、日本の防衛義務を負うことに納得しなくなるだろう。

 ▼北朝鮮の核武装や中国軍の増強で、日本防衛に伴う米国のコストと危険はかなり高まっている。

 ▼その分、日本がより多くの役割を担わないと、同盟があっても安定を保つのは難しい。

 実際に物量でみると、米中の海軍力は逆転しつつある。米国防総省は9月1日に発表した報告書で、中国海軍の水上艦・潜水艦は350隻に達し、米軍の293隻を抜いて「世界最大」になったと認めた。中国は地上配備の中距離ミサイルを千数百発に増やしたとされるが、米国はゼロだ。

 世論を二分し、支持率を下げてまで安倍氏が安保法を制定したのは、このままでは将来、日米同盟が弱体化するか、瓦解しかねないと恐れたからだ。

 この懸念は大げさなのか。近年の日米のやり取りは決してそうではないことを暗示している。

 トランプ大統領は14回にわたる安倍氏との会談で、日米同盟は「公平ではない」と執拗に不満をぶつけた。

 「空母3隻を派遣するには巨額の費用がかかる。日本はもっと面倒をみてほしい」

 例えば北朝鮮危機が高まった17年、空母3隻を朝鮮半島沖に送り込んだトランプ大統領は日本にこう迫ったという。

 彼は「米国が日本を守るのに、日本が米国を守らないのは不公平だ」とも公言する。乱暴なトランプ節にすぎず、真に受けなくてもよいと考えるのは大間違いだ。

 米国は「世界の警察」ではないと宣言したのは、オバマ前大統領であってトランプ氏ではない。米大統領選で民主党のバイデン候補が勝ったとしても、流れは変わらないだろう。

 米国は約20年間、中東やアフガニスタンで戦争し、国内では空前の格差と分断に苦しむ。他国を守るより、まず国内再建だとの空気は米世論にも広がっている。

 次期政権はこうした潮流を再認識するところから出発し、日米同盟を息切れさせないことが肝心だ。新しいミサイル防衛網のあり方や自衛隊に反撃力を持たせる議論など、米側と直ちに擦り合わせるべき課題はたくさんある。

 一方で野党には、今も安保関連法に反対する向きが少なくない。ならば、同盟をどう強め、厳しくなる安全保障の環境に対応していくのか、もっとち密で詳しい代替策を示さなければならない。

 むろん経済協力と対話を深め、中国と安定した関係を築くことも大切だ。安倍氏も17年以降、習近平(シー・ジンピン)国家主席の広域経済圏構想「一帯一路」に、条件付きで支持を表明。コロナ危機がなければ、今年は習氏を国賓で日本に招くはずだった。

 それでも中国による尖閣諸島への挑発や、東・南シナ海での軍拡は勢いづいている。中国との融和に努めるとともに、安全保障面の手当ても進めていくしかない。

 最長政権を率いた安倍氏をもってしても、日米同盟を強めるのはたやすいことではなかった。この努力を続け、二度と戦争の惨禍を招かない体制を保っていくことが、政治指導者の最大の使命だ。


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