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解説ワイド(公明)
新型コロナ対応で問われる科学と政治の関係性
大阪大学COデザインセンター・平川秀幸教授に聞く
2020/09/02 4面
■専門家は事実やリスクを評価/政策判断や説明責任は政府に
――これまでの日本の新型コロナ対策への評価は。
平川秀幸・大阪大学教授 専門家と政府の間で科学的なエビデンス(証拠)に基づく議論によって決められた政策が、一定の機能を果たしていると言える。その意味で、専門家が果たしてきた役割は大きい。
ただ、専門家の知見を対策に反映させていく上で、両者の関係性の難しさも露呈した。2月に発足した政府の旧専門家会議、感染第2波に備えて7月に設置された分科会が担うべき役割や責任の範囲といった組織の位置付けがはっきりせず、専門家は難しいかじ取りを迫られている。
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例えば、2000年代初めの「狂牛病」と呼ばれるBSE(牛海綿状脳症)問題への対応が好例だ。当時、停止していた海外産牛肉の輸入再開の可否を議論する際、日本の食品安全行政は、省庁の縦割りの弊害もあって科学的エビデンスを軽視して、行政の裁量で政策を決定しているとの指摘があった。そこで、内閣府に食品安全委員会を立ち上げ、専門家が独立の立場で食品の安全性を科学的に評価できるよう改革した。議事録も全面公開され、米国産牛肉のリスク評価を行う会合では、国民へのリスクコミュニケーションのあり方に触れ、政策決定や国民への説明の責任は政治にあることが明確化された。両者の関係性が健全に機能した例である。
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――「科学は正確な答えを出すもの」と固定的に捉えている人は多いのではないか。
平川 新型コロナの猛威を見れば一目瞭然で、状況が刻一刻と変わる現状を踏まえても、そうした固定観念は誤りだと強調しておきたい。
本来、科学が答えを出すには相応の時間が必要だ。このため、政治や社会が意思決定するために必要な時間とは、どうしても差が生じてしまう。科学者の助言は、その時点での最善の知見であり、覆ることもあり得る。だからこそ、議論の記録を残して公開し、何が誤りだったかを検証できるようにすることが肝要だ。当時の専門家会議が発表した状況分析や提言は、議事録が公開されない中、一定程度、その役割を果たした。
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――科学者と国民をつなぐ必要はないのか。
平川 今後、政治の側が対策によって影響を受ける人の声をよく聞き、専門家にも伝えるべきだ。例えば、東京都新宿区の歌舞伎町で感染拡大が収まらなかった際、新宿区長がホストクラブ経営者らの声を直接聴取して対策に生かした。こうした現場の声を国レベルでも積極的に聞いてほしい。その声を専門家に伝えることで効果的な提言につながることも期待できる。科学と政治の関係性にも好影響を与えるはずだ。
ひらかわ・ひでゆき 1964年生まれ。国際基督教大学大学院比較文化研究科博士後期課程・博士候補資格取得後退学。博士(学術)。京都女子大学助教授、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター教授などを経て、2016年より現職。専門は科学技術社会論。