??
文化(公明)
花と鳥と日本美術
武蔵野美術大学教授・玉蟲敏子
2020/09/02 5面
■庭園と四季絵の響き合い
戸外の風景にうつろう小さな自然を楽しむことは、室内の生活調度や絵画などに描かれた草花や鳥獣を鑑賞することに通じている。日本の花鳥画や草花絵は、縄文・弥生・古墳の各時代の陶器、漆器、壁画などに施された動植物の文様を下地にして、東大寺の正倉院に伝来する屏風や器物類に見るように、奈良時代に本格導入される中国・唐代の花鳥画や、西アジアを起源とする楽園模様を原型として発達した。
とりわけ六曲一双の屏風形式が確立する室町時代には、四季のめぐりを基本の構図とする四季花鳥図や四季花木図の屏風絵が描かれるようになった。これらはおおむね細い水流で四季の木々や花々をつないで構成しており、遣水のめぐる上流階級の庭園の風情と響き合っていた。室町後期になると、平安以来のやまと絵を受け継ぐ宮廷絵師の土佐派に対して、中国・南宋画の強い筆線を学んだ狩野派が台頭し、戦国物の大河ドラマさながらに土佐派の技法も飲み込んで画壇の覇権を握っていく。華やかな金地金雲の「四季草花小禽図屏風」(東京国立博物館蔵)は、繊細な草花絵をお家芸とする土佐派の技法を狩野派が学んだ例である。右隻前景の燕子花の開く夏の水辺から、隻をまたいで季節も秋に移り、菊や萩の咲き乱れる左隻の後景へとつなぐ。上方では小鳥に混じって、トンボや蝶が群がり、すっくと立つ鶏頭の赤が目にも鮮やか。岩の上にサンジャクが二羽とまる。ところどころ葉も茶色に枯れ始めている。