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【エコノミスト360°視点】
最低賃金の決定、専門的知見を
デービッド・アトキンソン 小西美術工芸社社長
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(6ページ)
2020/8/21 2:00
2020年度の最低賃金は、7月22日の厚生労働省中央最低賃金審議会で水準が示されなかったことを受け、901円のまま実質据え置きとなった。日本は既に主要先進国の中で第2の格差社会である。春季労使交渉では1.94%の賃上げがなされたので、さらに格差が広がるわけだ。
格差を決める、給料の中央値に対する最低賃金は日本は経済協力開発機構(OECD)29カ国中25位だ。メキシコ並みで、実質最下位である。経営者の団体は「雇用を維持するためにも最低賃金は据え置くべきだ」と言っているようだ。果たして本当に雇用を守れたのか、今後の失業率の動向を注視したい。
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最低賃金の位置付けが変わった主な要因は、製造業が経済に占める比率低下に伴う労働組合の弱体化、そして労働市場の規制緩和だ。労働者の交渉力低下、経営者の発言力増加で、労働分配率も下がってしまった。
経営者が本来支払うべき給料よりも低く払っている現象をモノプソニーと言う。経営者は安易に利益を得やすくなる。結果、経済合理性の低い小さい企業が増え、国全体の労働生産性と国際競争力の低下をもたらす。このモノプソニーを制限するのが最低賃金の引き上げである。
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日本で最低賃金の方向性を決めるのは中央審議会だが、主要メンバーは従来型のいわゆる「公労使」から成る。彼らは近代的な最低賃金政策を学問的に判断できる専門家ではない。また、主に企業の現在の支払い能力を基準にしているので、経営能力に乏しい弱体企業や生産性を上げようとしない経営者にレベルを合わせてしまう。
さらに中央審議会の議事録発表は遅く、簡略化されている。その上、最低賃金を実質的に決める地方の審議会専門部会のほとんどは非公開で議事録もない。判断の根拠となる分析も少なく、単に労使間の感情的な駆け引きに終わりかねない。だから今回のように、「コロナ禍で大変なので凍結」という雑な理屈になってしまう。そして最終的に引き上げ幅を決めるのは、経済政策の専門家ではない労働局長だ。これではいつまでたっても生産性は上がらない。
今の制度は、高度成長と共に役割を終えるべきだった。令和の時代には、英国の低賃金委員会のように、経済政策や統計学の専門家による徹底的な科学的分析に基づいた提言を受けて、日本政府と各都道府県知事が最終的に決めるべきである。コロナ禍で日本の中で老朽化し、アップデートしないといけないところが明らかになりつつある。最低賃金制度も例外ではない。