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春秋
日本経済新聞 朝刊 1面(1ページ)
2020/8/21 2:00
チョッキを着たウサギを追い、少女が穴の中へ飛び込んでいくと――。ルイス・キャロルの児童小説「不思議の国のアリス」の始まり始まり。この物語に登場するから、架空の生き物だと思っていた人もいるだろうか。大きなくちばしの飛べない鳥、ドードーのことだ。
▼ドードーは実在する、いや実在した。インド洋上の無人島だったモーリシャスにだけ生息していたが、17世紀に入植者らに追い詰められ、わずか100年ほどで姿を消してしまったのである。そのドードーの島が、油という新たな脅威にさらされている。日本の貨物船が先月、島の沖で座礁し、大量の燃料油が流れ出した。
▼海に浮かんでいる分はほぼ回収できたというが、油は島の宝であるサンゴ礁やマングローブの林へと流れ着き、付着している。生態系に影響を与えるとの懸念から薬剤や吸引ポンプは使えないため、人海戦術が頼り。住民やボランティアらが島の特産、サトウキビの葉を束にして油をかき集めるといった地道な作業が続く。
▼マングローブの根元は小さな魚やカニなどのすみかとなる。「命のゆりかご」と呼ばれるゆえんだ。環境の回復まで30年かかるとの指摘もされる。もともと親日的な国だというだけに悔しい。英語の「dodo」は滅びてしまったものの代名詞の意味を持つという。間違ってもdodoの仲間を増やさないよう応援したい。