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【Deep Insight】8月15日、市場への警鐘
日本経済新聞 朝刊
2020/8/15 2:00
米国は大恐慌の引き金を引いた1929年の株価大暴落を機に、続々と市場改革を進めた。
「市場の番人」として証券取引委員会(SEC)や証券業の自主規制団体を設立した。日米開戦前年の40年、総仕上げに作ったのが小口投資家を守る投資顧問業法だ。証券会社や機関投資家が襟を正すことで大衆マネーを市場に呼び込み、株価の形成を正確にする狙いを貫いていた。
●米国は、その後も「投資の国」として成長し続けた。
イノベーションの原動力でもある。2002年に設立した宇宙開発ベンチャー、スペースXは今年5月、民間初の有人宇宙飛行に成功し、宇宙開発も民間が担う時代になった。税金を投入するあまり開発に慎重な米航空宇宙局(NASA)よりも、失敗を恐れないベンチャー精神が買われている。
ハングリーな風土を支えるのは、喜んでリスクを取るベンチャーキャピタルなどの民間マネーだ。源流をたどると年金基金などを経て個人マネーに行き着く。
社会の危機にも立ち向かっている。世界保健機関(WHO)への拠出額で、首位の米政府に次ぐ規模を誇るのがマイクロソフトを創業したビル・ゲイツ氏の財団だ。
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だが、「ピープルズ・キャピタリズム(大衆のための資本主義)」は掛け声倒れに終わった。財閥解体などで市場に出てきた株を全国の人々に買ってもらう「証券民主化運動」は長続きせず、投資家の裾野が広がると期待された投資信託も普及しなかった。
失敗したのは、少なくとも2つの理由で投資の風土が日本に根付かなかったからだ。証券界には自戒の肉声が残っている。
まず、お上頼み。「もっとも自由市場であるべき証券市場に、半ば公的な共同証券が買い手として現れており、その買いの手に一喜一憂している」。野村証券を率いた北裏喜一郎氏は、1984年にこう振り返った。
株式市場が不振を極めた64年、株を買い支えるために政府の肝煎りでこしらえたのが日本共同証券だ。北裏氏はこれを「資本市場の機能壊滅」と断じ、多様な相場観を持つ投資家を呼び込めなかったことを恥じた。
次に、販売ありき。「初めに売り子があって、後から投信という商品が生まれている」。95年、岡三証券の社長だった加藤精一氏の証言だ。運用力があって初めて投信を販売するのが常識的な順序だ。日本にはノルマで鳴らす証券会社の強い販売力があったので、小口投資家の資産を作る運用や商品開発の力が育たなかった。
2つの暗部は今も続いている。北裏氏の発言は、共同証券を日銀に置き換えれば何の違和感もない。加藤氏の反省に対し「資産運用会社は、販売会社の下請けをとっくに卒業している」と断言できる人は、どれだけいるか。
日米の危機から91年。投資力の差は開いたが、秩序が一変するコロナ渦は巻き返しのチャンスでもある。経済の混乱で市場には歴史的な「異常値」が散らばっており、投資判断は今こそ試される。
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金の国際価格は過去最高を更新した。金融緩和策に拍車がかかり、金利は世界的に最低水準だ。それなのに4〜6月の世界のデフォルト(企業の債務不履行)は1〜3月の8倍近い940億ドルと、同期間で最大になった。