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【Asiaを読む】IT大手に支援、独占の弊害生む
シンガポール国立大学リー・クワンユー公共政策大学院
准教授 ジェームズ・クラブツリー氏
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(8ページ)
2020/8/15 2:00
米議会下院の司法委員会は7月、米IT(情報技術)大手4社の最高経営責任者(CEO)を呼んで公聴会を開いた。アップルとアマゾン・ドット・コム、グーグル、フェイスブックはほぼ無傷で切り抜けられたようにもみえる。ただ、将来も幸運かどうかは定かでない。
アジアに目を向けると、各国の政府は自国の大手IT企業に前向きな見方をするようになっている。特に、中国とインドは国内の支配的なIT企業の育成に力を入れているようだ。アジアには、米IT企業よりもはるかに手ごわい巨大企業が誕生する可能性がある。
複数の米IT企業については、新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、時価総額が膨らむ傾向にある。7月の公聴会にビデオ会議システムを通して参加した4社のトップは、5時間半にわたり質問攻めにあった。野党・民主党の議員らから、会社分割が必要になるほど危険な独占的地位を築いているとも非難された。
ところがアジアでは、独占的な企業の支援が事実上、政府の政策になっているようだ。中国は、米企業と互角に戦えるような企業を育成しようとした。ネット大手のアリババ集団や騰訊控股(テンセント)、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を運営する北京字節跳動科技(バイトダンス)、通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)などは手厚い支援を受けてきたといえる。
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中印のハイテク政策がナショナリズムに走ったのは、東南アジアの二の舞いを恐れたからだった。めざましい結果もみられた。例えば上海やムンバイの携帯電話の利用者が、テンセントのオンライン決済やリライアンスの第4世代(4G)通信に対応した低価格の料金に恩恵を受けたことに異議を唱えるのは難しい。
しかしアジアのIT企業の独占に近い地位は、短期的には多くの利益をもたらすかもしれないが、後々の問題につながりかねない。政治家とIT企業の癒着が、結局はイノベーションではなく、非生産的な縁故主義を生み出してしまう可能性がある。米国のような格差の拡大も問題だ。
おそらく最も重要なのは、ケタ外れの市場支配力だろう。当初はIT企業が競争をもたらし価格引き下げに寄与するが、後に強力な独占企業になってしまう。アジアの規制当局はいずれ現在の欧米のように、IT企業の力を減らそうとするかもしれないが、手遅れになっている可能性がある。