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春秋
日本経済新聞 朝刊 1面(1ページ)
2020/8/10 2:00
「青打込堺渦葉青采咲牡丹」。いきなり呪文みたいな漢字を並べてしまったが、これ、アサガオの品種の名である。読み方は「あお・うちこみさかいうずは・あお・さいざきぼたん」。葉の色、葉の形、花の色、咲き方――を組み合わせ、こんな長い名前をつけるのだ。
▼江戸時代から育まれてきた、いわゆる「変化朝顔」の世界である。突然変異を起こしやすいこの植物の特性に気づき、粋人たちはさまざまな種を生み出した。千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館くらしの植物苑で開催中の「伝統の朝顔」展(9月6日まで)では、その一端に触れることができる。おお、これもアサガオか!
▼19世紀に大きなブームが2度やってきて、好事家は珍品づくりを競ったという。「メンデルの法則」など知る由もないから、すべては試行錯誤。気の長い試みを続けたわけだ。誰も知らない花を咲かせたときは胸が高鳴っただろう。傑作は高値で取引されたらしい。いろいろな図譜が出版され、コンテストも開かれていた。
▼江戸の文化はダイナミズムには欠けたかもしれない。しかし、この情熱、この好奇心を思うだけで高い精神性がわかる。西洋文明が流入してくる前の時代に、人々の心はなかなか豊かだったのだ。それにしても、会場の花がだいぶしおれている……。あたぼうよ、早起きして来ないからさ。江戸っ子のアサガオに叱られた。