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【迫真】試練の航空(1) 「会社はもつのか」
日本経済新聞 朝刊 総合・政治(2ページ)
2020/8/10 2:00
「資金が続く限り、雇用は守る」。7月29日、ANAホールディングス(HD)は2020年4〜6月期の最終損益が1088億円の赤字となったと発表した。四半期決算として最悪の水準だ。発表後、社長の片野坂真哉は約4万5千人のグループ全社員にこんな異例のメッセージを送った。
20年度の夏季賞与は前年比で半減した。経営トップが社員に直接雇用維持を強調することは、08年のリーマン・ショック時もなかった。メッセージを受け取った社員の胸中は複雑だ。ある客室乗務員が「当分解雇されないようなのでホッとした」と胸をなで下ろす一方で、ある男性社員は「果たして会社はもつのか」と不安を隠さない。
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新型コロナウイルスの流行で航空需要は世界で蒸発した。国際航空運送協会(IATA)によると搭乗旅客の合計飛行距離は4月、前年同月のわずか6%に急減した。8月以降も感染は衰えず第2波の懸念が高まる。
国内も同様だ。新型コロナによる減収額は、航空業界の推計で全体の半分にあたる約2兆円。重症急性呼吸器症候群(SARS)があった03年や、リーマン・ショックに揺れた08年は3千億〜4千億円と全体の1割ほど。桁違いの打撃が及ぶ。
航空各社が取り組むのがコスト削減のための減便だ。1回のフライトをやめるかどうかで、収支は数百万円変わる。「移動が必要な医師などの旅客もいる。どの路線を切ればいいのか」。この春、事業会社のANA(全日本空輸)で運航ダイヤの編成を取り仕切るマネジャーの林原央和は苦悩していた。
ANAは政府の緊急事態宣言を受け、5月の国内線は計画比で約85%を運休した。北海道の離島路線などは医療従事者が利用することもある。公共インフラとしての使命と赤字拡大の阻止のジレンマに襲われた。
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だが未曽有の経営環境の悪化はコストカットでは追いつかない。「手元資金は大体3千億円。毎月1千億円近くキャッシュアウトしている」。春以降、ANA首脳の表情に険しさが増した。日を追うごとに現金の流出は増え、同社は借り入れを中心とする資金確保に一気に舵(かじ)を切る。
「日本政策投資銀行への要望」。ANAの幹部は4月、こう記載した資料を手に首相官邸、国土交通省を行脚していた。あくまで業界団体としての行動だが、要望書の第1項目には「航空業界全体で2兆円、当社で1兆円以上の融資枠の確保」と記した。
この要請は政投銀には寝耳に水だった。長年の取引にもかかわらず、頭越しの政府への要請はいわば「おきて破り」。ANAはそれほど焦っていた。支援の枠組みが整うと、5月までに政投銀やメガバンクなどからコミットメントライン(融資枠)を含む9500億円を手当てし、約1年分の運転資金を確保した。
JALは経営再建の途上で、当時の従業員の3分の1に当たる約1万6千人も削減した。社長の赤坂祐二が「二度と繰り返してはならない」と語るなど、人員整理の生々しい記憶は社内に残る。
ANA、JALとも当面の資金繰りにめどがついたが、関係者の一部ではなお再編論もくすぶる。焦点は不振の国際線だ。政府の資本注入を契機に分離し統合する。国際線だけなら合計シェアは25%程度と、独占禁止法にも抵触しないとの見立てだ。
双方ともこうした見方を否定するが市場の臆測は消えない。未曽有の難局を乗り越え、再離陸のきっかけをつかめるか。視界はなお晴れない。
(敬称略)