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【核心】対中国 現代版「合従の策」
編集委員 滝田洋一
日本経済新聞 朝刊 オピニオン(6ページ)
2020/8/10 2:00
河野太郎防衛相は7月21日、英議会のトム・トゥーゲンハット外交委員長ら議員団とのビデオ会議に臨んだ。その際の河野氏の発言を、トゥーゲンハット氏がSNS(交流サイト)で紹介している。
「ファイブ・アイズ」に日本を加えて「シックス・アイズ」にする。そのアイデアに、河野氏は「歓迎する」と前向きに応じたというのだ。
第2次大戦中の米英の暗号解読協力に由来するファイブ・アイズは、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドも加えた5カ国の情報収集・監視体制である。最近、日本も加えて6カ国体制とする案が出ている。実現すればインド・太平洋地域の安全保障に少なからぬ影響を及ぼす。
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日本にとっては、情報保護に関する法制が参加へのひとつのハードルとなる。また本格的な情報機関を持たない日本から、どんな情報を提供できるかという問題もある。
それにしても、戦勝国であるアングロ・サクソンの奥の院に招かれるようなら、日本も手ぶらとはいかない。河野氏はそう考えたのだろう。欧州連合(EU)離脱で心細い英国に対し、会議で「環太平洋経済連携協定(TPP11)への参加」を呼びかけた。外交委員長の喜ぶまいことか。
もあったという。「デジタル人民元は借款や決済に使われ、中国に情報を送り返すデジタル・クラウドがつくられつつある。ジブチなどの国々で中国によるデータ獲得が増大中だ」
ジブチ、パキスタンなどでの港湾建設というおなじみの中国への懸念に、河野氏はデジタル人民元への警告を加えた。中国はドル決済機関である国際銀行間通信協会(SWIFT)から離れた人民元の世界を目指しているからだ。
香港問題への制裁として、米国は中国のドル決済からの締め出しを用意している。金融の急所である資金決済は米中新冷戦の主戦場である。
同じ保守党政権でも、英国は中国との黄金時代をうたったキャメロン首相時代なら河野氏の警告に馬耳東風だったろう。中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)に主要国で真っ先に参加表明し、訪英した習近平(シー・ジンピン)国家主席をバッキンガム宮殿に泊めたのはキャメロン氏だった。
メイ政権、そしてジョンソン政権になって、英国は夢からさめたように変わった。今や英海軍の現役空母2隻のうち1隻の東アジア常駐さえ取り沙汰されている。
ウイグル自治区や香港での中国の強硬姿勢が目覚まし時計になった。コロナで英国の死者は欧州最多の4.6万人を数えるが、初期段階での中国の情報開示への不信感は英国民の間に渦巻いている。
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ファイブ・アイズは協力分野の拡大も課題に上る。希少資源や医療品といった戦略物資を共有する仕組みである。
例えばレアアース。携帯電話やパソコンのほか、ミサイルなど軍事関連にも欠かせない。中国が世界生産の90%を占める。日本も2010年に尖閣諸島を巡り中国と対立が深まった際、レアアースの蛇口を閉められ立ち往生した。デジタル化が加速するなか、レアアース確保は安全保障上の命綱。豪州、カナダ、米国で生産を増やし、中国依存度を下げようと急いでいる。
医療用品でもコロナ禍で中国頼みの危うさが浮き彫りになった。世界の医療用品輸入のうち、ゴーグルやバイザーなど医療眼鏡の59%、口鼻保護具の64%が中国からだ。
中国産の原薬供給が滞った結果、医薬品の製造に支障をきたすなど、薬の中国依存も改めて問題となった。医療用品を外交手段に使う中国の「マスク外交」に対する悪印象は、欧州でも決定的だ。
ファイブ・アイズでの自由貿易圏をつくるという考えが豪州から出ている。中国のコロナ対応を批判し、香港問題に対する懸念を表明したのを機に、中国は豪州への制裁を強めた。関係悪化の発端は、中国による豪州の選挙への干渉が明るみに出たことだ。
豪州のモリソン政権には弁慶の泣きどころがある。貿易や投資での対中依存度の高さだ。弱みを克服するため米国を盟主とするファイブ・アイズを自由貿易圏に発展させることは、理にかなっている。
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幅広い分野で対中連合が形成されるなかで、シックス・アイズの議論が出てくるのは自然だろう。古代中国で、台頭する強国・秦に東の国々は連合して対抗しようとした。いわゆる「合従の策」だが、その現代版ともいえる。
最大の不確定要素は11月の米大統領選。かつての親中派バイデン候補が当選すれば、中国に対する拳を下ろすのではないか、という点だ。
それにしても、感染症に対する情報開示や条約の順守といった点で、英国や豪州などの対中不信は相当に深い。バイデン氏が同盟国重視をうたうなら、その声を無視した抜け駆けはできまい。とりわけ英国は21年の主要7カ国(G7)首脳会議の議長国であり、関係を一段と密にするのが日本にとって得策だろう。