【Deep Insight】半導体に米中不在の鉱脈
コロナ禍の都内で適度な距離を保ちつつ直接話ができたのは半導体大手、旧エルピーダメモリ(2012年に会社更生法の適用を申請)の坂本幸雄元社長だった。
昨年、中国政府に請われて紫光集団という現地企業の半導体メモリープロジェクトの立ち上げにナンバー2として加わった。勤務地は神奈川県。だが、設計から人材の採用まで量産の実現に向けて全面的に関与しているという。
坂本氏によれば、中国側には並々ならぬ熱意があり、自分にも李克強(リー・クォーチャン)首相から「よろしくお願いしたい」との声が直接かかった。
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先週は米国政府による対中制裁がさらに加わり、華為技術(ファーウェイ)など中国5社の通信機器、監視カメラ、無線機を調達する各国企業も対象に追加された。違反すると米国の政府調達市場から締め出されてしまう。
「第2のスプートニクショック」とも呼ばれる最近の緊張状態は中国企業が存在感を増す次世代通信規格(5G)や人工知能(AI)技術が原因だと言われるが、突き詰めれば実は、高性能半導体を巡る技術摩擦だ。例えば、中国の携帯基地局の基幹モジュール、画像認識などに演算処理用として使われるプロセッサーは米国や韓国の技術と比べても遜色がないと言われている。物によっては逆転が起きたとの指摘もあり、米国は徹底して封じ込めを続ける構えだ。
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中国も日米から製造装置が買いにくくなる中でその間隙を縫い、技術の導入や独自開発に余念がない。3、4年後には米国と同水準の製造技術が確立されていると見るのも間違いではなかろう。
むしろ両者の間で困惑するのは巻き込まれた日本などの企業だ。米中摩擦のはざまでどちらと優先的にビジネスをするか、踏み絵を踏まされる事態もすでに起き、事業は不安定になりがちだ。
日本について言えば、そうした状況は自国市場が小さく、貿易に依存する点、さらにデジタル技術で覇権を握った者に富が集中する「ウィナーテイクスオール(勝者総取り)」の時代だからこその帰結だ。米欧の後追いをすればコストの差で勝てる、という90年代までとは状況が違い、米国のGAFAや半導体大手の確立した世界を逆転するのは難しい。