米、中国共産党を標的
米国務長官「新同盟で対抗」 「新冷戦」の様相強まる
日経朝刊 1面(1ページ)
訪問先のカリフォルニア州で演説した。強権的な手法で影響力を強める中国に対し「私たちが共産主義の中国を変えなければ、彼らが私たちを変える」と強調した。トランプ政権には共産党の体制そのものに問題の根源があるとの認識が強まりつつある。
「習(共産党)総書記は全体主義のイデオロギーの信奉者だ」とみなし「共産主義に基づく覇権への野望」があると警戒感を表明。経済的発展を支援して中国の民主化を促す歴代政権の「関与政策」は「失敗した」と改めて断じた。
中国共産党に行動転換を促すため「自由主義諸国が行動するときだ」と宣言。「米国がやったように互恵性と透明性、説明義務を迫らないといけない」と各国に呼びかけた。さらに「欧州、アフリカ、南米、とくにインド太平洋地域の民主主義国家の尽力が必要だ」と主張。国連や北大西洋条約機構(NATO)、主要7カ国(G7)などの国際的な枠組みを列挙し「経済、外交、軍事力を適切に組み合わせれば、脅威に十分対処できる」と述べた。
閉鎖を求めた南部テキサス州ヒューストンの中国総領事館は「スパイ活動と知的財産窃盗の拠点」と断じた。
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ポンペオ氏はトランプ政権の対中強硬派の代表格。演説には複数の点で米国の対中政策が節目にあると印象づける仕掛けがある。一つは、その舞台として1972年に電撃訪中して対中外交を切り開いたニクソン元大統領ゆかりの博物館を選んだことだ。
「中国が変わらなければ世界は安全にはならない」「(中国に門戸を開いたことで)フランケンシュタインをつくってしまったのではないかと心配している」――。演説でもニクソン氏の過去の発言などを引用した。
ニクソン政権で始まった米国の関与政策に終止符を打とうとするトランプ政権の方針が鮮明になった。欧州訪問から時間をおかず、博物館のある西部カリフォルニア州までポンペオ氏がわざわざ足を運んだのはそのためだ。
もう一つは旧ソ連への言及の多さ。レーガン元大統領が「信頼せよ、しかし確かめよ」の原則にそって冷戦下でソ連に向き合ったと指摘。「中国に関していうなら『信頼するな、そして確かめよ』になる」と語った。
「中国共産党はソ連と同じ過ちを繰り返している」とも述べ、強権主義が潜在的な同盟国を遠ざけているとの認識を示した。冷戦での勝利を意識し、中国との新たな体制間競争に打ち勝つ決意を示そうとした意図がうかがえる。
米国は西側陣営とほぼ交流がなかった旧ソ連には「封じ込め」と呼ぶ政策をとった。経済関係が深い中国はこれとは違うとし「『封じ込め』ではない。私たちがかつて直面したことのない複雑で新しい挑戦だ」との見解を示した。
ポンペオ氏は「世界の自由国家は、より創造的かつ断固とした方法で中国共産党の態度を変えさせなくてはならない」と宣言した。これまでも中国共産党の体制を問題視する発言を繰り返してきたが、これだけの舞台装置を整えて強権路線の修正を要求したのは初めてだ。トランプ政権としての本気度を表す。
ただ対中包囲網の構築は道半ばだ。ポンペオ氏は「あるNATO同盟国は中国政府が市場へのアクセスを制限することを恐れている」と不満をあらわにした。中国と経済関係の深いドイツやイタリアを念頭に置いている可能性がある。在外公館の閉鎖を巡る応酬も続き、収束のきっかけをつかめない米中対立はチキンレースの様相を呈している。