Contents
RSS 2.0

ブログ blog page

2020.7.22-4(3)

2020年07月21日 (火) 16:51
2020.7.22-

【経済教室】コロナ危機と世界秩序(下)
国際機関、「共通の利益」明確に
古城佳子・青山学院大学教授

 国際通貨基金(IMF)は6月、2020年の世界経済の成長率予測をマイナス4.9%に下方修正した。100年に1度といわれた08年の世界金融危機後の成長率を下回る。また感染症撲滅は各国の協力が不可欠な課題なのに、米国の世界保健機関(WHO)の脱退通告は国際的な協力体制の構築が程遠いことを示す。

 コロナ危機は国際秩序のさらなる不安定化をもたらすのか。「さらなる」と述べたのは、コロナ危機以前から国際秩序の不安定化が懸念されてきたからだ。

世界金融危機以降の経済停滞の中で、国際秩序の不安定化が冷戦後の「国際自由主義秩序(international liberal order)」の危機として論じられてきた。

 国際自由主義秩序とは、自由主義開放経済、民主主義、多国間主義に価値を置く見方であり、冷戦後に合意の拡大が期待された。実際、経済面では新自由主義が強化されグローバル化が加速し、民主主義国が増え、国連でのSDGs(持続可能な開発目標)の採択にみられるように、多国間協力の枠組みは非政府組織(NGO)や企業などの非国家主体を含めて拡大した。

 だが世界金融危機後、これら3つの価値の合意が揺らいできた。経済回復に時間がかかる中で、国内での格差が拡大し、特に先進諸国では中間層の所得の伸びが鈍化した。グローバル化がもたらす「共通の利益」への懐疑が生じ、社会の分断が目立つようになった。

 民主主義国では、社会の分断を背景にポピュリズム(大衆迎合主義)が支持を集め、一国主義的、排外主義的な傾向が強まった。米人権団体フリーダムハウスの指標によれば、過去14年間で世界の民主化は後退している。また新興国や途上国に加え先進国もIMFや世界貿易機関(WTO)など既存の多国間枠組みに対する不満を表明してきた。

 国際組織などの多国間枠組みを、国際社会の「共通の利益」を実現する協力の場とみるよりも、各国の「個別利益」実現の手段とする認識が広がりつつある。

◇◇

 コロナ危機は短期的には2つの政治的要因で以前からの人々の既存秩序への懐疑を深めており、国際秩序の不安定化は続くだろう。

 第1にコロナ危機により政府の役割が増大していることだ。流行地域が限られた近年の感染症と異なり世界各国が危機に直面し、ワクチンや特効薬が開発されるまで収束が見通せない。

 第2にコロナ危機は米中二大国の対立を一層深めていることだ。いち早く感染を抑制した中国は、感染発生によるイメージ悪化を挽回すべくマスク外交を展開しWHO支援を表明するなど、感染症対策で存在感を示そうとした。感染者数・死亡者数が世界最多の米国は、中国の初期対応を情報開示が遅れたと厳しく指摘し、東・南シナ海への海洋進出の継続や香港国家安全維持法の制定などの強硬な政策に対し価値観の相違を挙げて批判を強めている。

◇◇

 多国間主義が最も必要とされる局面でのWHOを巡る米中二大国の対立は、国際機関の専門性、中立性に基づく正統性を損なわせかねない。トランプ大統領の再選は多国間協力をさらに困難にするだろう。バイデン政権が成立すれば、米国は国際協調路線への方針修正が期待できるが、米国の多国間主義への懐疑は消えるだろうか。いや、簡単にはいかないだろう。なぜなら多国間協調には国内での支持が必要だからだ。

 米中は国際機関の活動や多国間枠組みの形成に不可欠な資金の供給能力を有する(表参照)。両国は多国間枠組みの主導権を巡る競争を続け、WHOやWTOなどの国際機関に対して改革を要求し続けるだろう。国際協調の要である国際機関は単に従来の「共通の利益」や多国間主義を唱えるだけでは支持されず、「共通の利益」の新たな内容や実現に向けた手続き効率化に加盟国の期待を収れんさせていく必要がある。

 日本は国際機関を支援してきた主要国であり、国際協調から得られる外交上の利益は大きく国民の支持も存在する。日本は米中の対立に翻弄されることなく、「共通の利益」の認識を共有できる国家間での合意を取り付け、多国間主義を修復していくことが必要だ。



トラックバック

トラックバックURI:

コメント

名前: 

ホームページ:

コメント:

画像認証: