【The Economist】中国株式会社と付き合うには
今から19年前、無名の中国企業がドイツのフランクフルト郊外と英国のベッドタウンに欧州初の営業所を開設し、通信ネットワーク構築の入札に参加するようになった。今日、中国の通信機器最大手、華為技術(ファーウェイ)は、「中国株式会社」の恐るべき隆盛と世界の貿易制度における信頼の崩壊を象徴する。売上高1230億ドル(約13兆円)の同社は、非常に安い価格設定と、中国指導部の産業政策目標の達成に献身的に貢献する姿勢で知られる。
米国は2018年からファーウェイに法的な攻勢を仕掛け、米中の貿易戦争の火種となった。そして英政府は14日、次世代通信規格「5G」からファーウェイを排除する方針を示した。他の欧州諸国も追随する可能性はある。だが、西側諸国の確固たる決意表明とは程遠く、一貫した戦略がないことを露呈した。開かれた社会と独裁主義的な中国が経済的なつながりを維持し、無秩序な状態に陥るのを避けようとするなら、新たな貿易の仕組みが必要だ。
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ファーウェイ側も、英サイバー専門家から同社ソフトはバグが多く監視しづらくなっているとのクレームや、不透明な企業統治や株主構成の是正を求める要請を受けてきた。だが英側が納得する対応は示されなかった。それでもなお中国指導部が重大局面では法の支配を尊重するだろうという残された期待は、香港を巡る一連の騒動で完全に打ち砕かれた。
ファーウェイを欧州の通信ネットワークから排除する直接的なコストは許容できる範囲内だ。コスト増分を20年で償却する場合、欧州の消費者の携帯電話利用料金に上乗せされる割合は1%にも満たない。西側のサプライヤー、エリクソンとノキアは生産を増やせるし、ソフトやオープンな標準を積極的に活用したネットワーク構築の技術が進む中、新たな競争が生まれる可能性もある。
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ファーウェイ排除は、断絶と封じ込めが必要という根拠に基づく。だが、この論理を西側諸国と中国との経済関係全体に当てはめてはならない。西側にとってかつての独裁主義のライバルは旧ソ連だが、貿易面では小国だった。中国は世界の輸出の13%と時価総額の18%を占めるアジアの経済大国だ。
必要なのは、中国の特質を見据えた新しい貿易体制の構築だが、これは容易ではない。貿易の普遍的なルール作りを目指す世界貿易機関(WTO)は、デジタル経済の進化に追いつけなかった。さらに習近平(シー・ジンピン)国家主席が、中国の民間企業や、ファーウェイのように従業員の全額出資を掲げる企業に対して、国家と中国共産党の影響力を強化していく事態を想定できなかった。WTOに幻滅したトランプ政権の貿易交渉チームは、単独で中国に立ち向かい、関税や禁輸措置をちらつかせて中国経済の自由化と補助金の削減を迫った。だがそれは大失敗に終わった。
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また、中国企業は西側諸国に所有する大規模な子会社について、現地の株主や外国人役員、実質的な経営陣などについての透明性を担保する開かれた企業統治と、中国政府からの一定の独立性を確保するために有用な情報開示を受け入れる必要がある。これは困難ではない。英蘭ユニリーバなどの多国籍企業は何十年も前から行っている。ティックトックは中国の先駆的企業になれるかもしれない。
開かれた社会は一致して行動すればより強くなる。欧州諸国は長年にわたる米国との協力関係に終止符を打ち、単独で行動したい誘惑に駆られるかもしれない。だがいずれかの時点で、あるいはトランプ大統領が再選できなければ近いうちに、米国は欧州との同盟関係の再強化に踏み出す。同盟国の協力がなければ思うような効果が得られないからだ。
西側諸国は中国を根本的に変えたり、その存在を無視したりはできない。だが団結して行動することで、信頼のおけない独裁主義的な国家とビジネスをする方法を見つけ出すことはできる。ファーウェイはその失敗例となってしまった。今こそもう一度やり直す時だ。
(7月18日号)