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2020.7.21-4(3)

2020年07月20日 (月) 20:05
2020.7.21-

【経済教室】コロナ危機と世界秩序(中)
多国間協力、インド太平洋で
添谷芳秀・慶応義塾大学名誉教授

 近年中国は、南沙諸島や西沙諸島での埋め立てや軍事用施設の建設も含めて、これら一連の行動を主権の問題として規定し、「核心的利益」として位置づけている。すなわち諸外国が拡張主義的とみなす一連の行動は、中国の主権下にある「国内問題」とされるのだ。

 中国の思いは、歴史に根差した中華意識の表出とみることができる。その中国の伝統的な性向を外部から変えることはおそらく不可能だ。ただし、中国がどこまで中華の伝統を振りかざそうとするかは、中国の国内情勢と中国を取り巻く外部環境に左右される。本質的には地政学的な抑止の効果は限定的だろう。よく言われるように、中国の発想は長期的だ。日本をはじめとする関係諸国の対応も、当面の抑止に依拠しながらも、より長期的な視野を持たなければならない。

◇◇

 これまで戦略的な利点として考えられてきた沖縄の東シナ海や台湾への地理的近接性が、中国のミサイル能力の増大に伴って、逆に脆弱性の窓として認識されるようになっている。米軍の前方展開兵力や日米同盟の役割が高まるなか、沖縄に押し付けられてきた過剰な負担が是正され得るという、一見逆説的な新たな戦略環境が生まれつつある。

 当然、以上のことは、日米同盟のあり方や日本の安全保障戦略に直結する問題だ。日本にも惰性から脱した思考が求められる。

 そこでより長期的視点から注目したいのが、米中対立が深まるにつれてインド太平洋諸国が相互に接近する流れが生まれていることだ。例えばそれぞれ正式の呼称は異なるが、日本と豪州(07年)、日本とインド(08年)、豪州と韓国(09年)、豪州とインド(09年)、日本とカナダ(10年)、日本とニュージーランド(13年)の間で、似たような2国間安全保障協力宣言が次々と締結された(表参照)。

◇◇

 米中の狭間に位置する国々による多国間協力は、必ずしも中国に対する対抗戦略を思量する場ではない。米中対立の常態化のなか、中国同様長期的に腰を据えて、インド太平洋諸国自らが望ましいと考える秩序の制度設計を試みる舞台だ。

 その結果、あるいはその過程で、これまで日本がほぼ一手に引き受けてきた米軍の前方展開兵力を分散化し、他の地域諸国が共同でホスト国となるような仕組みが生まれれば、日米両国にとっても望ましいシナリオといえるし、地域秩序も一層強化されるだろう。


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