◎アメリカ・モデル再考/渡辺靖・慶應大教授
フランスの思想家トクヴィルの名著『アメリカのデモクラシー』(1835年)は米国とロシアが「いつの日か世界の半分の運命を手中に収める」と予言したことで知られる。
国王や教皇ではなく、政治的・経済的に自由な市民(デモス)が大国を統治する実験国家・米国。ならば、正反対に、巨大な権力者や統治機構が人民や土地をトップダウンで支配する権威主義的な実験国家があっても不思議ではない。トクヴィルは当時のロシア帝国のなかに、来るべき東西冷戦の萌芽を見た。
米国は………二つの世界大戦を経て、自由主義に基づく「リベラル国際秩序」の牽引役となった。
さらに言えば、近代民主主義の土台をなす啓蒙思想の普遍主義的な性格とも相まって、米国こそは「世界の縮図」であるとする「米国例外主義」も顕著になった。
「米国はもはや世界の警察官ではない」
オバマ前大統領だが、多国間主義を米国の力の源泉と捉える姿勢は崩さなかった。
しかし、トランプ大統領の「米国第一主義」は「米国が他国や多国間枠組みによって搾取されている」という強烈な被害者意識に裏打ちされている。価値外交やソフトパワー外向は大きく後景に退いている。
北京大学にて………
「米国の政治家はつねに選挙を意識しているので、大衆会合に陥りやすく、20年、30年先を見通した国家運営ができない」
「党派対立のせいで意思決定が遅く、政策の実行力も乏しい」と米国モデルを嘲笑する声を中国人の知識層から多く耳にした。
なかには「米国が国際社会から身を引くことで生じる『力』や『秩序』の空腹を埋めるのは中国だ。ぜひ、トランプ氏には再選してもらいたい」との待望論すらあった。米国が有する広汎な同盟ネットワークは中国が欠く極めて重要な外交資産だが、トランプ氏は同盟関係すら金銭的な損得勘定で再検討しているようだ。
今秋の米大統領選で仮にトランプ氏が敗れても、米国の「米国第一主義」に共鳴した全米約4割の岩盤支持層は残り続ける。