【あすへの話題】美とは何か 資生堂社長兼CEO 魚谷雅彦
日本経済新聞 夕刊 1面(1ページ)
2020/7/20 15:30
美は宇宙だ! 化粧を意味する英語のコスメティクスは語源がギリシャ語のコスモス(宇宙)であり、「調和の取れているもの」という意味から派生した。人類が誕生したとされるアフリカ南部の遺跡からは装飾品が出土したとのこと。太古から「美」は人類にとって重要な概念であった。
今を生きる我々の生活も様々な「美」であふれている。美容や美人に留(とど)まらず、美術、自然美、賛美、美味、有終の美などの言葉がある。美しくありたいのは人間の根源的なニーズのようだ。従って、私は美を実現することは人の幸せを実現することと捉えている。そのような事業に携わっていることに私や資生堂の社員は大きな意義と使命感を感じている。
グローバル化の時代、世界中の人々に美の価値を届けようと毎日取り組んでいるが、それぞれの文化や価値観を反映して美容の意味には地域ごとの違いがある。
なぜ美しくなりたいのかを調査すると、米ニューヨークではメーキャップで華やかに自己表現をするためとか、自信を付けるためという声が多い。パリでは香水の香りで自己を表現することが重要視されていた。一方、中国では美しさは外見だけでなく内面も意味し、身体の健康や精神的な豊かさをめざす東洋思想的な答えが返って来た。韓国では美容整形が普及しており、美は造るものという意見が多かった。
さて日本はどうか。銀座でショッピングを楽しむ女性たちに共通していたのは、美容といえば肌であり、スキンケアを一番重視し、化粧は外に出る時の「エチケット」とも。美は根源的な欲求であるが多様だ。