【経済教室】国際貿易体制の行方(上)
コロナ後も国際供給網 堅固
ミレヤ・ソリース
ブルッキングス研究所東アジア政策研究センター長
パンデミックは、既に弱体化していた多国間貿易システムに大打撃を与えた。世界貿易機関(WTO)が多角的貿易交渉を推進して関税撤廃をめざし、貿易と投資に関するルールを更新する可能性は皆無だ。
そのうえWTOは重要な使命である加盟国間の貿易紛争の仲裁役も果たせなくなった。最終審にあたる上級委員会は、2019年12月に機能停止に追い込まれた。上級委員会の裁定は越権行為だとする米国が委員の後任選定を拒んできたためだ。世界的に保護主義が強まっているときに、ルールにのっとった紛争解決メカニズムが機能不全に陥ったのは懸念すべき兆候だ。
グローバル化の申し子といえる中国は、WTO加盟を契機に世界の工場の座を確保し、その巨大な国内市場には多くの外国企業が進出を望んだ。だが同国は経済改革の熱意を失い国家資本主義モデルに回帰しており、そのコスト負担が他国に押し付けられている。国有企業には野放図に補助金や特権が与えられ、知的財産の保護は不十分で、対内投資の制限、技術移転の強制、データ保護主義にみられるように、中国政府がグローバル自由貿易の推進者を自称しても空虚に響く。
米トランプ政権はWTOには中国問題に取り組む能力がないと判断している。だが同じ考えを持つ国と協調して効果的な多国間貿易の仕組みを構築する気はなく、WTOを機能不全に陥らせようとしている。
米中の競争関係は関税合戦や技術覇権争いの様相を呈している。両国は20年1月にようやく第1段階の限定的な合意に達した。これで関税合戦は一段落し、外国直接投資や知的財産など非関税障壁への取り組みが始まった。だが中国の産業政策の柱である政府補助金や国有企業の優遇といった問題は手つかずのままだ。