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2020.7.11-4(4)

2020年07月10日 (金) 18:27
2020.7.11-

◎【FINANCIAL TIMES】香港、ビジネス都市に限界
チーフ・フォーリン・アフェアーズ・コメンテーター 
ギデオン・ラックマン

筆者は何年か前、シンガポールのある閣僚と話していた。その時、相手が一瞬本音が出たのか、シンガポール政府が野党政治家らの活動を意図的に難しくしていることを認めた。そして、かすかな笑みを浮かべてこう続けた。「しかし、ここシンガポールで政府が使う手段は、歯科医が使う器具程度のものだ。中国は大づちを振るう」


 だが、残念ながらこのシンガポールモデルは香港では成立しない。小規模な独立都市国家シンガポールは、自国が最終的には海外からポジティブに思われていないとまずいということを重々承知している。シンガポールには逃げ込む内陸もない。だが香港は、他のいかなる国にも一切頼る必要がないと考えている中国という巨大な国の一部だ。中国共産党は中国の正式名称を"人民の"共和国と定めているが、中国という国の大義のために香港を犠牲にしなければならないとなれば、習近平(シー・ジンピン)国家主席率いる現政権はためらうことなくその決断を下すだろう。

 シンガポールの人々は常に、世界中で実行されている最良の政策や慣行を調べ、それらに照らして自国を評価している。シンガポールの制度には独裁主義的な要素が複数あるが、それがどう行使されるかは予測可能なうえ、同国はその行使について慎重だ。これに対し中国の制度は予測不能で、それらは中国共産党による容赦のない権力と権威をもって行使されることになる。

 シンガポールの「建国の父」で初代首相を務めたリー・クアンユー氏は、英ケンブリッジ大学を卒業した著名な法律家で、西側諸国の考え方が身についていた。だが習氏が君臨する中国は法の支配という西洋の概念をはっきりと否定し、中国共産党による支配が正しいとしている。習氏は昨年2月発行の中国共産党の理論誌「求是」への寄稿でこう書いている。「中国は、西側諸国のように立憲主義や三権分立、司法を独立させる道を決して歩んではならない」

 だが、香港は習氏が忌み嫌う西側諸国の法の尊重と司法の独立を守ることで繁栄してきた。習氏の考え方は中国共産党こそが絶対的権力を握るのだとするもので、今後は国家安全法の施行により、この考えを香港にも適用していくということだ。



 これまで香港のオフィスやバーではみんな自由に会話し、習氏の健康や資産、正気なのかといったことを好きに臆測してきた。だが香港の人々は既にメールに書く内容やプライベートな会話でもその内容に慎重になっている。一般の会話もかつての自由さは消えているだろう。

 香港に拠点を置く企業にとって切実な問題は、本土と強力なコネを持つ企業や中国国有企業と法的紛争になった場合、公平な対応を期待できるのかという点だ。中国政府と極めて良好な関係を築いていると自信を持っている企業でさえ、思いもしない事態に陥る可能性がある。中国の大企業の経営者でも突然、覚えのない汚職の疑惑をかけられ、一夜にして地位を失うことは珍しくない。

 中国は間違いなく、香港が豊かでダイナミックな発展を続ける都市であってほしいと考えているだろう。民主化を求めるデモと混乱が1年以上続いた香港を中国政府が無政府状態から救おうと本気で思っている可能性さえある。だが残念ながら、中国政府が今回取った措置は、ベトナム戦争中にある米軍将校が語ったとされる言葉を思い出させる。「この村を救うためにこの村を破壊しなければならなかったのだ」


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