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これまでの運だったのか

2015年10月25日 (日) 22:31
これまでの運だったの

◎三方ケ原
しかしそのころ、信玄はまだ家康が運命をかけて決戦を挑んで来るとは思っていなかった。

(あせるな。織田の援兵が到着するまでは)

「今日の振る舞いは平八と思われず、八幡大菩薩の化身のようだ。後の大戦を控えていたずらに兵を失うのは愚の骨頂」

家康の心がわかる気もするが不安でもあった。三方近い武田の大軍に対して横一線という備えはない。どこを破られても……しかし、家康の言うとおり退却路はなかった。

大将がその決心でも戦は一人でするのではない。この大戦を前にしてそのような構えでは旗色の揃うはずはなかった。
「そうか。やっぱりのう。まだ若い」

「ほほう、その方までがそう申すか。では勝頼、一戦やるかの」

家康はそのとき、床几の前へ焚き火をたかせ、傲然と腕組んで眼を閉じていた。

(どこまでいっても予の心のわからぬ奴……)

「よく見て見ろ、敵の厚さは鉄壁に見えるのに、味方は薄く透いて見える。これで殿が思いとどまらぬとは……」

(運命の神が見てござる!)

およそ三百にあまる屍体をのこして、徳川勢は四散してしまったのだ。

(これまでの運だったのか)

疾走する力もなくなった馬。
運命をかけて惨敗した大将。
「敵の大将信玄が首、高木九助が討ち取ったり。お館さまのご帰城ぞ。開門開門!」


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