◎夜明け
「人生は思えば夢のようじゃな」
……
「夢のつづきはこれからでござりまするぞ」
……
「まだまだ、殿の苦労など苦労のうちではない」
十有三年。隠忍に隠忍を重ねて来たのを、一朝の怒りにかられて無にするところ。
「さっきも祖洞が申したように、潰すばかりの武力はそのまま地獄への門でござる。生かすための活人剣、それのみが仏の許したもう武力でござりまするぞ」
『厭離穢土、欣求浄土』(おんりえど ごんぐじょうど)
「厭離穢土」おんりえど(えんりえど)
この世は穢(けが)れたものであるとして、嫌い離れること。
「厭離」は嫌い離れること。「穢土」は穢れた土地のこと。
仏教の言葉。おもに「厭離穢土、欣求浄土」という形で用いられ、穢れたこの世から離れて極楽往生を願うことをいう言葉。
その絶望にならされて、幸福などは自分にないもののように考えられていたのに、やはりそうでもないらしい。じっと心を静め、気を練って耐えてくると、天も悲運に飽きて来て、やがて幸運をもたらすものらしい。
(雅楽助)
「……また、阿古居におわすご生母さま、駿府に眠らせられる華陽院さま、ごらん下さりませ、元康さまはわが城にどっかと坐ってござりまする……おめでとう存じまする」
(そうだ! これからはわしはやらねばならぬ! わしを柱として、助けてくれた家人のために)
元康は泣く代わりにニコニコと笑ってうなずいた。
(今日がわしの二度目の誕生日。みな見ていてくれ。これからの元康の働きぶりを。一度死んで、大きな無の上に立ちはだかった元康を)