第4巻 葦かびの巻
◎再会
「奥方さま、めずらしいお方が……」
……
(母は勝った!)
……
「これはこれは、ようこそお越しなされました。久松佐渡が家内、於大にござりまする」
……
「生まれたか時から一方ならぬご造作をかけました」
(母に会うて来てよかった!)
言葉を変えて言えば、それは前後左右に活路のない完全な死地であった。
その死地のま中に立たせて、
「ーー力あれば生き残って見よーー」
おごそかに運命は元康を試みようとしている。
ふと元康は微少した。
……
(瀬名……とうとう戻れぬことになったぞ)
……
「それにしても……」
元康は見るともなしに空を見上げてつぶやいた。雲がだんだん切れて来て、そこからキラキラといっぱいの星が見え、その一つがすーっと南の海へ落ちていった。
最後に捨つべきものーーそれはわが生涯の否定であった。自分を否定し去ったところに、はじめて限りなく静寂な「無ーー」が残る。
が、いじめ抜かれた義元にはそれほど義理を立てる必要があろうかどうか、という迷いがみんなの口を開かせない。
◎女の立場
(なぜこのようなところにみなを集めておくのだろうか……?)
「元康さまは、この身がこの世で、はじめて知った殿御でござりまする」(吉良御前)
「はい、この身に良人の死ぬまで不貞の心を抱かせた……それが憎うござりまする」
「……若君にお会いなされて、御所さまの葬い合戦はいつのことかとお聞きなされて下さりませ」