◎桔梗責め
「もう少し桔梗をお切りなさいませんか」
「あ!」と楓が、おどろいて立ったときには、田原御前はもはや、殿の居間を飾ろうとして切ってあった桔梗の束をつかんで、お春の方を打擲(ちょうちゃく)していた。
「よくも……よくも……殿のお名まではずかしめる! もう許せぬ! 許せませぬ」
◎一粒の米
一粒の米の中に日月を蔵し
半升の鍋の内に山川を煮る
竹千代も広忠も華陽院もみんな仕合わせになりますように。
そして今の良人、俊勝も……。
水野忠政が、広忠の父清康と争って和議したとき、刈谷城外の椎の木屋敷の酒宴の席で、於富の方は松平清康の眼にふれたのだ。そのとき於富の方は二十四の清康より六歳も年上でありながら、二十そこそこにしか見えなかったと聞いている。
……
「これは美人じゃ。余にくれぬか」