第2巻 獅子の座の巻
◎至遠の望
俊勝にいどまれると於大の体は燃えてゆくのに、眠って見る夢の中の良人はつねに広忠だった。
(心は先夫、身は良人に……)
女にとって、再縁とはあさましい悲嘆であろうか。そんな夢のあとではいつもしっとりとまくらがぬれた。しかも俊勝はそれを知らない。
「お許の実家はわしに過ぎたる家柄じゃ」
◎秋霜の城
「松平広忠、織田弾正に見参……」
「待てッ!」と信秀はとめた。
「もうこときれている」
「あっぱれな!」
「面(おもて)を改めましょう。広忠どのではござりますまい」