6) 工会の関与(第4条、第6条、第 41 条、第 43 条、第 51 条、第 78 条関係)
?使用者は、労働者の利益にかかわる内部規定等を制定・改正する場合、工会又は
従業員代表と平等に協議して、確定しなければならない。 ?工会は、労働者の適法な権益を擁護しなければならない。 ?使用者は、従業員を 20 人以上又は従業員が 20 人に満たない企業が従業員総数の 10%以上を削減する場合、工会又は全従業員に対して説明し、意見を聴取しなけ ればならない。 ?使用者は、一方的に労働契約を解除する場合、その理由を工会に通知しなければ
ならない。工会は、違反のある使用者に是正を求める権利を有する。 ?労働協約は、工会が企業従業員側を代表して使用者と締結する。 ?工会は、労働者の適法な権益を擁護し、使用者の労働契約及び労働協約の履行状
況に対して監督を行う。
中国における工会(労働組合)は、日本の労働組合とその性格は大きく異なる。工 会法は、「工会は労働者が自主的に結成する、労働者のための大衆組織である」と規定 しているが、実際には、企業内の福利厚生的な役割 25 を担う組織としての側面が強い ようである。また、工会は、労働争議が生じた場合に調停を行う企業内の労働紛争調 停委員会では、労働者側の代表ではなく中立的立場に立ち、労働者と使用者の紛争仲 介を行っている。
工会が設置されている企業は、全従業員の給与総額の2%を工会費として工会に納 めなければならず、しかも工会の役員には当該企業の管理職が選任されることが多い とのことであった。日本では、労働組合に対する使用者の不当な関与を排除するため、 当該企業の役員・管理職者の組合への参加及び使用者から組合への経理上の援助は認 められておらず(労働組合法第2条)、この点は大きく異なる。
中華全国総工会は、工会の設立促進に力を注いでおり、工会の設置率及び加入率は、 いずれも7割を超えているとのことであった。
本法律では、労働契約に関するあらゆる場面で工会の関与を義務付けることにより、 使用者の労働者に対する一方的な不利益的行為を抑制し、もって労働者の権益を保護 することとしている。また、これにより、工会を設置していない企業に対して、その
25 企業が労働者に対して行う福利事業や給与、労働安全及び社会保険義務に対する協力、勤務時間以外 における勉強会の実施や労働者のレクリエーション活動への取組等
設置を促すという狙いもあるようである。
いずれにせよ、本法律が制定されたことにより、工会の役割は、労働者の利益を代 表するという側面が大きくなり、責任も重くなったと考えられる。これについて、中 華全国総工会は「以前から工会の役割は少しずつ変わりつつある。今後、労働契約法 の規定に基づく役割を労働者のためにきちんと果たしていきたい。」との見解を示して いる。
日系企業での工会の設置に関する見解・対応は、2通りに分かれているとのことで あった。1つは、工会を設立し、これを上手に利用することで、よりよい労使関係を 築くべきであるという見解・対応である。もう1つは、工会の設置には全従業員の賃 金の2%という大きな負担がかかるにもかかわらず、その役割にどれだけの効果があ るのか疑問であるという工会の設置に消極的な見解・対応である。
現在のところ、企業に工会の設立義務はないが、各地域の総工会は、工会の設置率 を引き上げるべく、工会を設置していない企業に対して圧力をかけているとのことで ある。今後、本法律による工会の役割強化が、工会の設置率にどのように影響するの か、また、工会が本当に労働者の代表としての役割を果たすことができるのかが注目 される。