5) 派遣労働者(第 57 条、第 58 条、第 92 条関係)
?労働者派遣会社は、会社法の関係規定に従い設立されなければならず、登録資本は 50 万人民元を下回ってはならない。
?派遣元は、派遣労働者と2年以上の期間の定めがある労働契約を締結しなければ ならない。また、派遣元は、派遣労働者が就業しない期間においては、最低賃金 基準に従った賃金を派遣労働者に支払わなければならない。
?派遣労働者に損害を与えた場合、派遣元と派遣先は、連帯賠償責任を負う。
近年、中国では、雇用調整が簡易であること、従業員の労務管理の負担が少ないこ と、直接雇用による人材の確保が困難になっていることなどの理由で、派遣労働者を 活用する企業が増えている。
しかし、労働者派遣会社の設立条件が低く設定されていることから、多くの労働者 派遣会社が設立され、派遣労働者への賃金未払や賃金のピンハネを行う悪質な会社も 多く存在していた。また、派遣労働者が増加し、様々な問題が生じているにもかかわ らず、これまで派遣労働を規制する法令が整備されていなかった。
このため、本法律では、派遣労働に対する厳しい規制を設けた。まず、労働者派遣 会社を設立する際の登録資本を 50 万元(750 万円)以上とし、一定の資金力を有さな ければ、労働者派遣事業を行うことができないこととした。
そして、注目されるのが、派遣元と派遣労働者との間で締結される労働契約の期間 は2年以上でなければならないとし 24、 派遣労働者が就業しない期間中(派遣されて いない期間中)にも派遣元は派遣労働者に最低賃金基準に従った賃金を支払わなけれ ばならないとしたことである。
これにより、派遣労働者は、派遣元との労働契約の期間中は、派遣されていない期 間であっても一定の賃金が保障されることになる。しかし、派遣元からすると、労働 者を派遣しておらず、派遣先からの収入がないにもかかわらず、派遣労働者に対して 賃金を支払わなければならないことから、大きな負担となる。このため、多くの派遣 元が、本法律による負担増を派遣先に転嫁すべく、派遣先に対して労働者派遣契約の 改定を要請しているとのことであった。すなわち、今後、労働者派遣契約の期間を2 年以上とすること、又は派遣期間が2年未満の場合、派遣元と派遣労働者の労働契約 期間の残存期間の賃金を派遣先が負担することとするもので、本法律による新たな負 担は派遣先が負うという内容の派遣契約に改定しようとするものである。
これについては、現在、派遣元と派遣先で協議中のところが多いようであるが、弁 護士事務所は「派遣先が一定の負担を負わざるを得ないというケースが多いのではな いか」との見解を示している。
この背景には、外国企業の駐在員事務所(例えば日本企業の上海支店など)では、 現地で中国人を直接雇用することが認められておらず、現地で中国人を雇用したい場 合、中国政府が指定する労働者派遣会社から労働者を派遣してもらわなければならな いという規制の存在があると考えられる。この中国政府が指定する労働者派遣会社は、 大手数社による寡占状態となっており、派遣先(駐在員事務所)は、不利な派遣契約 を締結せざるを得ない状況にあるとのことであった。
このような状況を踏まえ、外国企業の駐在員事務所以外の企業では、派遣労働者を 使用するメリットがなくなったとして、派遣労働者を直接雇用に切り替える動きがで てきているようである。
24 派遣労働者について、労働契約法第 14 条の連続2回有期労働契約を締結し、更に契約を更新する場合 に期間の定めがない労働契約を締結しなければならないとする規定が適用されるのか、それとも同法第 58 条の派遣元と派遣労働者との間で締結される労働契約の期間は2年以上とする規定が優先されるた め同法第 14 条は適用されないのか、解釈が分かれている。