第35章
小説
『藪を突っ突いて蛇を出した男』が
完結する。
「大変だ、早く早く、殿様が。助太刀を、助太刀です。戦でありますぞ、チャンバラ、チャンバラ。…」
「待て、悪党め、腰抜け、もう、逃げられんぞ、偃月刀(えんげつとう)が何ほどのものか、どうせ鈍(なまくら)」
左腕に、寝床から剥いだ毛布を巻きつけている。毛布はサンチョの怨敵。怨むわけは当人が誰より身にしみて知っている。
しかし、家の中を探していると、宝石箱が開いたままでほとんど空になっていた。そこで初めて自分の悲劇に気づき、下女の仕業でないことも察するに至って、着替えもそこそこ、…アンセルモは正気が失せそうになり、そこへ、止めを指すようなことが起きた。家に帰ると、下男も下女も残らず失せ、空き家同然で、…いっぺんに、妻は行方不明、友は失踪、使用人も消えていたわけで、神にすがろうにも、見放された思いであった。妻を失うことで身の破滅を招き、男の体面も失った。
下女は、ゆうべアンセルモの家の窓から敷布を伝って下りたところを御用になったとか。
筆(ペン)を手にしたのであったが、書くべきことを書き終えないうちに力尽き、そのまま、度を越した好奇心ゆえの苦悶に命を渡してしまった。
修道院のカミーラは知らせを聞いて、後を老いかねない状態になるが、それは死んだ夫の後を追うということではなく、愛人ロタリオが命を落としたことを知ったゆえであった。
知ったカミーラは尼となったが、ほどなく痛恨の呵責に沈んで息を引き取った。発端の心得違いが、三人を三様の結末へと導いたのである。