第34章
小説
『藪を突っ突いて蛇を出した男』続。
カミーラは落ちた。カミーラが落ちた。だが、手放しで喜ぶことであろうか。友情は今や地に足をつけて立ってはいない。代償は余りにも高い。…
下女のレオネラだけが奥様の不倫を知った。
「まったくもって、奥方は貞女の鑑だ極みと言って良い。ぼくに言えるのはそれだけさ。とても歯が立たなかった。しつこく口説いたよ、綿々と、だけど、馬耳東風、風と共に去りぬさ。…」
好きになってもいい男の条件として、Sで始まる四つの言葉がありますね。聡明で、そびえ立って、積極的で、静か。ロタリオ様は、これが揃っているだけでなく、AからZまで、…A愛に生きる、B美男子。C騎士道を、D黙って歩く、E偉いお方。F懐が深く、G義理固く、H恥を知って、I意思が強く、L理性があって、M身分があって、N名があって、Oお金がある上、Pぱりっとして、Q窮々せず、R凛々しい男。ここへいわゆる4つのSが来て、つぎに、T体面を大切にし、V嘘がない。Xは、バツ、きつい文字だからあの方には似合いません。YはIと共通、もう言いました。Z全身これ眼(まなこ)。奥様の貞操(みさお)の見張り番。
その裏切り者を、だまされきっているゆえに、手まで取って我が家へ招き、妻はそれを迎えて、嫌な顔を見せつつ、内心ほくそえむ。演技はそれ以降も続いた。しかし、二、三ヵ月後、運命の輪が急転し、巧みなからくりに覆われていた陰謀が明るみに出ることになり、藪を突っ突いたアンセルモの命取りになる。