2) 期間の定めがない労働契約(第 14 条関係)
?期間の定めがある労働契約を2回締結し、更に契約を更新する場合で、労働者が 契約の更新を申し出たときは、期間の定めがない労働契約を締結しなければなら ない。
?労働者が当該使用者において満 10 年以上勤務している場合で、労働者が契約の更
新を申し出たときは、期間の定めがない労働契約を締結しなければならない。
そもそも労働契約の期間の長さや労働契約の更新の有無などは、労働者と使用者の 自主的な交渉の下における合意に委ねられるべきものである。しかし、実際には、短 期の有期労働契約を締結することが多く、労働者の雇用が不安定な状況となっていた。
このため、本法律では、連続2回有期労働契約を締結し、更に契約を更新する場合、 又は勤続期間 10 年以上の場合であって、労働者が契約更新を申し出たときは、期間の 定めがない労働契約を締結しなければならないとしている。この規定は、労働契約期 間の長期化により雇用の安定を図ることを目的としたものであると考えられるが、こ れについて労働科学研究所の研究員は、終身雇用たる固定工制から労働契約制への移 行が行き過ぎて、短期の有期労働契約が多くなってしまった現状を少し元に戻すとい う趣旨であると説明している。
しかし、企業側からは、期間の定めがない労働契約の締結を義務付けることは企業 の雇用の自由を侵害し、人材の流動を停滞させ、新たな「鉄飯碗」の形成につながる ものであるとの批判がなされている。また、企業側は、企業に残ってもらいたい労働 者が退職してしまい、企業に残ってもらいたくない労働者だけが残るという事態を懸 念している。
?については、使用者が実質的に期間の定めがない労働契約を締結せざるを得なく なるのが、2回目の契約を締結した場合なのか、3回目の契約を締結した場合なのか で解釈が分かれている。この点について、労働社会保障部に見解を求めたが、近いう ちに実施細則を策定することを予定しているとの回答しか得ることができなかった。 なお、弁護士事務所や各企業の話によると、2回目の契約を締結した場合に実質的に 期間の定めがない労働契約を締結せざるを得なくなるという考えが現在通説となって いるとのことであった。
この規定に関する企業側の対応としては、今後の労務管理の在り方は実施細則等が
明らかになってから時間をかけて検討するが、当面、1回目の契約期間の長さをこれ まで主流であった1年以内から2 3年に長期化し(北京では2年、上海では3年と する企業が多いようである)、試用期間 23 又は2 3年の契約期間の間に労働者の能力 を見極め、当該労働者と2回目の契約を締結するかどうかを決定することとしている ところが多いようであった。なお、2回目の契約期間の長さをどうするかについては、 2回目の契約が期間の定めがない労働契約に結び付くことを考えると、意味のない議 論であることから、現時点では予測できない。
労働社会保障部は、本法律の施行により3 5年の長期契約が増加するのではない かと説明しているが、能力の高くない労働者は、2回目の労働契約を締結してもらえ ないケースが増加すると考えられ、契約期間の長期化を目指す本法律の趣旨と逆の影 響が出ることが懸念される。
?は、勤続期間 10 年以上の労働者が契約の更新を申し出たときは、期間の定めがな い労働契約を締結しなければならないとするものであるが、この規定の適用を回避す ることを目的として、2007 年 11 月、中国の大手メーカー「深 華為技術有限公司」 が、勤続期間が長い労働者 5,100 人を一旦辞職させ、再度、当該労働者と有期労働契 約を締結するという事実が発覚した。その後も法律の施行前に、勤続年数の長い労働 者を大量に解雇する、又は一度解雇して、改めて再就職させる若しくは派遣労働者に 切り替えるという企業が相次ぎ、大きな社会問題となった。
しかし、今後は、勤続期間が 10 年以上となる前に、?の2回目の労働契約の締結に よる期間の定めがない労働契約への移行が問題になると考えられることから、?の規 定が問題となることはあまりないと推測される。
23 1回目の契約期間の長さが2 3年とされた理由の一つとして、契約期間が長いほうが試用期間も長 く設定することができることとされたことが挙げられる。労働契約法第 19 条は、契約期間が3か月以 上1年未満の場合の試用期間は1か月、契約期間が1年以上3年未満の場合の試用期間は2か月、契約 期間が3年以上の場合と期間の定めがない労働契約の試用期間は6か月以内としている。