改革開放以降、中国は急速な経済成長をとげ、第二次産業、第三次産業に従事する 者が急増し、雇用社会へと大きく変化した。しかし、雇用社会の進展につれて、労働 契約の締結やその履行をめぐって、様々な問題が指摘されるようになった。
第1に、現に労働者が労務を提供しているにもかかわらず、書面による労働契約の 締結率が低いという状況があった。書面による労働契約が締結されていないため、労 働条件が明確でなく、トラブルになるケースが多くみられた。労働行政機関による監 督の結果、2006 年には 1,243 万件の労働契約が補充締結されている。
第2に、労働契約を締結していたとしても短期の有期労働契約が圧倒的に多く 22、 契約期間が短期化していることがあった。中国では、短期の有期労働契約が一般的で、 期間の定めがない労働契約を締結している者は多くない。契約期間が短いことは、企
22 建築業や飲食業では、契約期間が1年以下の労働契約の割合が 60%以上となっている。
業側にとって、景気と生産の調整弁として労働者の増員・削減が簡単にでき、長期雇 用による人件費のコストアップを避けることができるというメリットがある。
第3に、一般的に試用期間中の賃金が、本採用後の賃金より低く設定されているため、 使用者が、合理的な理由なく試用期間を延長したり、更新するなどの問題が生じていた。
第4に、最低賃金が守られておらず、最低賃金を下回る賃金が支払われるケースが 少なくないことや、賃金未払の件数が急増していることがあった。労働行政機関によ る監督の結果、2006 年には 58 億元(約 870 億円)が賃金等の補充支給として使用者 から労働者に支払われている。
第5に、劣悪な労働環境や長時間労働によって労働者の健康が侵害されているとい うことがあった。
第6に、派遣労働や短時間労働といった雇用形態で働く労働者が増加しているにも かかわらず、これらを規制する法令が十分でないため、劣悪な労働条件で働く者が多 いということがあった。
第7に、これら様々な問題が生じている中で労働者の権利意識が高まりつつあり、 労働関係紛争が増加しているということがあった。労働争議仲裁委員会(労働行政機 関の代表、工会(労働組合)の代表、使用者側の代表により構成)が受理した労働争 議の件数は、年々増加しており、2006 年には 44 万7千件に達している(図表 14)。
このような状況を踏まえ、労働契約に関する各段階における労働者の権利利益の侵 害を防止し、労働契約関係をめぐる紛争解決を図るべく、労働契約法の制定が検討さ れることとなった。